フィラデルフィア | パパ・パパゲーノ

フィラデルフィア

 ポール・ニューマンが、この間、俳優引退を表明しましたね。彼の奥さんがジョアンヌ・ウッドワードという女優です。1953年に結婚して子どもが3人。出たり入ったりの多いハリウッド役者同士の結婚としては、かえって珍しい。そうみんなに言われて、ニューマンはこう答えたそうです。「うちに帰ればビフテキが食べられるのに、ハンバーガー屋に寄る男がいるだろうか?」


 トム・ハンクスがエイズにかかって死んでいく弁護士に扮した映画『フィラデルフィア』で、この、ジョアンヌが素晴らしい存在感を示しました。トムの母親役です。死の前日に病院に見舞って「あしたも来るからね」と言いながら、もうお別れだ、ということが痛いほどわかっていて、しかし、悲しい表情を浮かべるわけではない。ゲイになった息子をすべて包容する、これぞアメリカの母だと感じ入りました。


 最後の夜を過ごして、死を見取るのがアントニオ・バンデラスです。母は、この恋人に息子を託すのですね。エイズが死と隣り合わせの病気だとさわがれたころの映画でした。監督はジョナサン・デミ。


 デンゼル・ワシントンが、トム・ハンクスの弁護士として登場しています。トムの自宅で打ち合わせをした後だったか、『アンドレア・シェニエ』というオペラのアリアのレコードを聴くシーンがありました。歌っているのがマリア・カラス。今でも絶賛される録音を使っていたと思います。


 映画に使われたクラシック音楽についても、いろいろな本が出ているようです。もちろんミスマッチもある。この映画のマリア・カラスの歌は動かしがたい選曲というべきものでした。