有吉佐和子
有吉佐和子に『不信のとき』という小説があります。去年、米倉涼子主演でテレビドラマになったようですね。私は見ていませんが。アマゾンをのぞいてみたら、ドラマを見た若い人が、小説を読んで、長いけど、ドラマよりずっと面白かった、と感想を書きこんでいました。話に説得力があるから、今でもテレビ・ドラマになるのでしょうね。原作の舞台は昭和40年代でした。
昔、この小説を読んだとき感心したのは、こんなところです。
サラリーマンが、バーのホステスを送ることになって、結局、部屋に招じ入れられることになります。(その先はお定まりの展開)
部屋に入るとすぐに、ガス・ストーブに火をつけます。こうするとすぐ部屋が暖まるから、と(マチ子という名前の)ホステスが言う。同時に(?)電気ストーブにもスイッチを入れるのだったか。暖まったら、ガスの臭いはさせたくない、と、気遣いをみせるのです。はあ、こういうふうにするもんか、と思いました。もちろん、その後、こういう気づかいをする機会もされる機会もなかったけれど。なくてよかった。
『華岡青洲の妻』もよくできた小説でした。青洲の妻になったのが、加恵(かえ)。姑の名が於継(おつぎ)。麻酔薬の実験台にどちらの女がなるか、丁々発止のかけひきをするのでした。
文学座が舞台に載せたのも見ました。青洲が北村和夫(このあいだ亡くなりましたね)、母親が杉村春子、加恵が小川真由美でした。母と嫁とが、息子をめぐって静かに火花を散らす様子がよく分かる舞台でした。演出も作者がやったのだと思います。
今でも文学座は舞台でやっているのでしょうか。
有吉佐和子は、問題作『複合汚染』や『恍惚の人』で、時代を先取りした達者な作家でした。1931年生まれ、亡くなったのが1984年ですから、わずか53年の生涯だったのですね。なくなる年にテレビに出て大はしゃぎしていた(それで顰蹙を買った)のをよく覚えています。作品に力がありますから、ずっと読まれていくものと思います。
新潮社から出た第1期の選集全13巻(ペーパーバックでした)は、しばらく前まで私の書棚にあったのですが、増える本に押されて別の場所に行ってしまいました。