キャッチボール | パパ・パパゲーノ

キャッチボール

 子どもの頃、となりのケンチャン(同級生)とは野球仲間でした。中学校の野球部で、彼がセカンド、私がショート(あるいはサード)でしたから、キャッチボールの相手もおのずからケンチャンということになります。


 30歳を過ぎた頃、ふたりとも子どもを持つ親になっていました。神奈川県に住んでいたケンチャンちに遊びに行ったことがあります。久しぶりにキャッチボールをしようということになった。


 2,3球投げあったあたりで、お互いに、なんだか晴れがましいような、照れくさいような、しかし、なつかしい感情が一気にやってきたのが分かりました。大きく距離をとって、遠投のマネをしたとたんに、肩がガキっと鳴ったような気がした。そこで私の野球人生は終わりました。そのあとも、会社の野球部に入れてもらって、投げたり打ったりしましたが、また肩が痛くなるのをおそれて、山なりの球しか投げることができなくなりました。


 ケヴィン・コスナー主演の『フィールド・オブ・ドリームズ』という映画は、野球映画の名作ですが、見終わって、これはキャッチボールの映画だ、と思ったことでした。亡くなった父親(バート・ランカスター)が、麦畑の中から球場にあらわれて、息子(コスナー)とキャッチボールをはじめるシーンがあった、と覚えています。違うかもしれませんが、私の中でこの映画は、父と子の、ボールに託した情愛のやりとりとして残っています。


 息子がグローブを手にするようになって、何度かキャッチボールをしましたが、残念ながら、そんなうるわしいものにはならなかったです。


 ケンチャンは、そのあと60歳近くまで現役選手だったんじゃないかと思います。こんど会うので聞いてみます。