号活字・ポイント・級数 | パパ・パパゲーノ

号活字・ポイント・級数

 「隅の老人」と言えば、オルツィ原作の探偵小説短編集『隅の老人の事件簿』(創元文庫、ほか)の主人公ですね。アームチェア・ディテクティヴ(安楽椅子探偵)の代表のように言われる。実際には、けっこう足を使って事件の解決をしていた記憶があります。


 小林信彦にも「隅の老人」と題する短編小説がありました。タイトルはもちろんこれに借りたものでしょう。


 ここから記憶だけに頼って書くので、あるいは、別の小説と混線するかもしれません。その場合はご容赦を。


 小林信彦の小説の老人は、出版社の編集部の「隅に」陣取って、割付や校正をしている。現場で、まあ、アルバイトをしています。語り手は、そこの編集部員。この老人はだまって仕事をしているのですが、おそるべき実力の持ち主であることが、だんだん分かってきます。


 手書きの原稿を印刷所に入稿するときには、1行の字数と、1ページの行数を必ず指定します。組みあがりページ数というものを予想して、大体の見当をつけるのが普通のやり方です。ところが、この爺さんは、組みあがりページ数を予想なんかしない。ピッタリ当ててしまうのです。数式があって(それが書いてあったように記憶しているのですが、小説にそんなこと書くかなあ)、それに当てはめて計算すると、最後のページが何行目で終わるかまで分かってしまう、というような話でした。



 私が編集の仕事を始めた1970年代は、まだ活版印刷の時代でした。ポイント活字が中心。今のワープロソフトのWORDなども、文字の大きさはポイント表示ですから、想像ができると思う。


 その前は、号活字の時代ですね。5号が10.5ポイントにあたる。数字が若いほど大きい。2号より1号が大きくて、初号はもっと大きい。私どもの頃に残っていた「号活字」は、たとえば、


 9ポ52字詰め16行、行間5号2分


などと指定するとき、と、タイトル文字を号活字で印刷し、それを凸版にして使う場合など、でした。


 写植の文字は、版下を作るときに主として使った。コンピュータで組版をするように変わって、あっという間にほぼ全部が写植の文字になりました。これは、文字の大きさは級数で表示します。1ミリの4分の1を1級としたのでした。ざっとした関係では、9ポイントが13級に当たります。


 アメリカ(だけかも知れない)では、パイカ(pica)という単位も使っている(いた)ようです。


 福沢諭吉は、彼自身が生きた時代の転変を、「一身にして二世を経る」と表現したそうですが、活字の世界で仕事をしてきて、私ごとき者でも同じような感慨を覚えます……というお話でした。