「老人力」全開 | パパ・パパゲーノ

「老人力」全開

 古稀を過ぎてもおそろしく生産力のある、二人の先生が、くびすを接してパワフルな本を出しました。


 谷沢永一(昭和4年生まれ)著『老年の智恵 人生の英知』(海竜社)

 渡部昇一(昭和5年生まれ)著『95歳へ!』(飛鳥新社)


 谷沢先生の、この本の中心メッセージは、たとえば、131ページのこういう記述です。


   世の老人がともすれば怠け易いのは、定められた時間に現われる律儀な配慮である。服装の端正と時間の厳守、これに多少とも乱れを生じたとき、ああ、あの人はもう、と静かにひとびとから見放されるであろう。

   しかし、すべての会合が老人の参加を期待しているわけではない。これは必ずしも自分が顔を出さなくてもよい集まりであると、嗅(か)ぎわける才覚のない人の出しゃばりは甚だ迷惑である。


 なんという行き届いた注意でしょう。世の年よりは、すべからく、この凛とした提言の含むところを肝に銘ずべし、と思いました。

 怠惰な著作・著作者に加える筆誅の鋭さでは類を見ない先生ですが、読者の身になる栄養分を届けようとするときには、ひとかたならぬ思いやりを示します。


 渡部先生、77歳からのメッセージも、向日的で積極的な生き方のすすめになっています。


 60歳直前に志や意志が希薄になっていることに気がついて愕然とした、おっしゃっています。気をとり直して、猛然とラテン語の暗記を始める。年をとっても記憶力は強化できるということを、身をもって体験した、と喜びあふれる筆致で語ったのち、


   突き詰めて言えば、人生とは記憶です。もしすべての記憶が失われたら、肉体はその人であっても、人格はその人ではなくなります。晩年を生きるにあたって、最も大切なことは記憶力を鍛え、多くの記憶を持ち続けることではないでしょうか。(115ページ)


と書いていらっしゃる。95歳まで生きる目標を立てて生きることが、仮に途中でいけなくなったとしても、目標を立てぬまま、漫然とお迎えを待つよりいいではないか、というのです。


 お二方とも、昔から、押し付けがましいところが微塵もなかった。一方で、共通して、激越な論争家でもありましたから、敵は少なくないはずです。しかし、多くのファンが読者であり続けているのは理由のないことではありません。