ジェルモン比べ | パパ・パパゲーノ

ジェルモン比べ

 4月28日に「魔笛というタイトル」を書きましたが、オペラのタイトルの邦訳はときどき不思議なものがある、という話でした。

 今日の日記は、『椿姫』についてです。もともと、原作のデュマ・フィスの La Dame aux Camelias が「椿姫」と訳されていましたから、オペラのタイトルもそれを踏襲したものらしい。オペラの原題は La Traviata (道を踏みはずした女)ですね。


 カメリアが椿で、ダームが婦人ですが、この主人公ヴィオレッタ・ヴァレリーは、上流階級相手の白拍子のような女です。「椿姫」と訳したのは森鴎外だそうです。「姫」という語がアヤシイ。白雪姫の姫とは響きが違います。


 ヴィオレッタに恋こがれる若者が、アルフレード・ジェルモン。ヴァレリーもアルフレードの求愛に応え、苦界(?)から足を洗って、パリ郊外でふたりの生活を始めます。これが第2幕。そこへ、アルフレードの父親、ジョルジョ・ジェルモンが訪ねてきます。


 このオペラを語るときは、息子をアルフレード、父をジェルモンと呼びならわすので、以下それに従います。


 息子はテナー、親父はバリトンが歌う。ジェルモンは、婚約が決まった娘(アルフレードの妹)のために、ヴィオレッタに、アルフレードと別れてくれと言いにきたのでした。世間体をはばかったのですね。


 ここから、ソプラノのヴィオレッタとバリトンのジェルモン、の、アリアおよび二重唱の歌くらべになっていきます。美しい旋律に乗せて心理戦が展開します。イタリア・オペラの中で、(おそらく)もっとも多く演じられる理由は、この第2幕にあると思っています。


 これまで聞いた二人の組み合わせ。


 イレアナ・コトルバシュ――シェリル・ミルンズ(カルロス・クライバー指揮、グラモフォン)

 アンジェラ・ゲオルギウ――レオ・ヌッチ(ゲオルク・ショルティ指揮、デッカ)

 エディタ・グルベローヴァ――ジョルジョ・ザンカナーロ(カルロ・リッツィ指揮、小学館DVD)

 マリア・カラス――エットーレ・バスティアニーニ(カルロ・マリア・ジュリーニ指揮、EMI)


 どのバリトンも甲乙つけがたいけれど、しいて好みをあげれば、シェリル・ミルンズが1番、レオ・ヌッチが2番か。

 ミルンズは、品のある美声の持ち主です。メトロポリタンがやった『シモン・ボッカネグラ』(指揮、ジェームズ・レヴァイン)のヴィデオで見た、堂々たる統領振りも印象に残ります。


 このオペラの初演はヴェネツィアのフェニーチェ劇場なのだそうです。グルベローヴァのやった『椿姫』は、1992年のフェニーチェ劇場でのライヴです。序曲を聞きながら、運河を舟で劇場に近づいていく、そういう趣向になっていました。『夏の嵐』(アリダ・ヴァッリ主演の映画)の冒頭に出てくるのも、この歌劇場。96年に火事で焼失。04年にリニューアル・オープン。