海ゆかば
「海ゆかば」の歌詞はご存じでしょうか。引用しても著作権には抵触しないと思うので、引きます。
海ゆかば 水(み)漬(づ)く屍(かばね)
山ゆかば 草むす屍
大君の 辺(へ)にこそ死なめ
かえりみはせじ
この古歌に、信時潔(のぶとき・きよし)という作曲家が曲をつけました。昭和13年のことだという。
戦時中、儀式、遺骨送迎、玉砕の放送時などに歌われたのだそうです。もちろん、私は聞いていません。
はたちを過ぎてから覚えたと思う。
『日本の詩歌』別巻「日本の歌唱集」(中央公論社、いま中公文庫)を参考にこれを書いています。ミ・ソ・ラ・シ・レ・ミの日本民謡音階で書かれているのだそうです。
丈が高くて、荘重で、名曲の条件をすべて備えたような曲ですが、いま公共の場で歌われることはまずありえない。わずかに、カラオケ店で、年配者が歌うくらいではないでしょうか。言うまでもなく、戦中の記憶のある人にはつらい歌なのですね。戦後民主主義の盛んだったころは、国を誤った歌である、というような批判もあったのです。
この曲を作った信時先生は、戦後すぐは、活動停止状態に追い込まれたということを、いつか読んだことがあります。
楽譜の読める方は、(小さな声ででも)歌ってみてください。しみじみと、いい曲だということがわかるはずです。
「藍より青き 大空に 大空に」で始まる、梅木三郎作詞・高木東六作曲『空の神兵』も、軍歌として作られたので、今でも敬遠する人が多いでしょうが、じつに元気の出るマーチです。これも、上記の本に出ています。