フルートとハープのための協奏曲
モーツァルトのフルート嫌いは有名な話です。この曲はパリに出たモーツァルトが、フルート好きの貴族とその娘のために作ったものとのことですが、「比類のない傑作」というのはこの曲のためにあるような形容です。とくに第2楽章のアンダンテ、
ミミミ レーシド ファーソラソ ミーミ ファソシラソファミーレ
ミファラソファミレード レミファソラファミーレ
と、くり返し流れるメロディー。音階を行ったり来たりするだけ(のように聞こえる)なのに、天上の響きがありますね。吉田秀和の『モーツァルトを求めて』(白水社)に再録された文章の中に、「音階の作曲家」というエッセイがありました。いかにも、天才アマデウスは、単純な旋律を強い表現に変える魔法使いみたいな人です。
映画『アマデウス』の1シーンで、コンスタンツェが内緒でサリエリに持っていった楽譜がちらばって、それをサリエリが拾い集めるときに、この旋律が流れました。
モーツァルトの作品について、何から書こうかなと思いあぐねて、まずこの曲が浮かびました。
「私にとって死とは、モーツアルトが聴けなくなることだ」と言った人がいますね。アルバート・アインシュタインだったでしょうか。大いに共感をおぼえました。