吉田一穂
グルベローヴァのリサイタルを一緒に聞いたSさんから、学生時代に吉田一穂(いっすい)という詩人を教えてもらいました。ばかりではなく読書万般についての私の師匠です。ときどき口をついて出る一穂の詩句。
病みて帰るさの旅の津軽海峡 (月は傾く…)
ああ麗しいデスタンス
つねに遠のいてゆく風景…
悲しみの彼方 母へのさぐり打つ夜半のピアニッシモ
二つの詩のアタマの部分です。2番目の詩(母というタイトルだったか)など、「母恋歌」としては空前の作かと思います。三好達治の、
母よ
淡くかなしきもののふるなり
紫陽花いろのもののふるなり
のセンチメンタリズムも悪くはないけれど、吉田作品の凛としたたたずまいには及びません。
ついでながら、いまスクリーンセイバーにしているのは、西脇順三郎のこれ。
くつがえされた宝石のような朝
何人か戸口にて誰かとささやく
それは神の生誕の日