権利の濫用 | マリアンのブログ

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 家族が出かけた先で、宇奈月温泉の「権利の濫用」判決について聞いたと話してくれました。

民法1条3項は「権利の濫用」を禁止しています。

これは、昭和22年の民法一部改正によって明文化されたものですが、それより10年以上も前に大審院(現在の最高裁)判決で示された法理です。

 

昭和の初め、富山県の宇奈月温泉の引湯用木簡をめぐって、次のような訴訟事件が起こりました。

宇奈月温泉は、黒部川上流の温泉源から木簡によって湯を引いています。

木簡を設置した大正時代、何らかの過失によって、木簡のほんの一部を第三者の土地の地下に無断で通してしまいました。

その土地は、黒部川沿いの急傾斜の地面で農耕にも適さず、長年、荒地のまま放置されていました。

ところが木簡の存在を偶然に知ったSという男が、その荒地を高値で買取り、宇奈月温泉に対して法外な値で買取請求をしました。

これを拒絶した宇奈月温泉に対してSは、さらに所有権に基づく妨害排除請求権の行使として、木簡そのものの撤去と土地への立入り禁止を請求したわけです。

どちらを選択しても、温泉は死活問題に追い込まれることになるのです。

 

昭和10年、大審院はわが国で初めて「権利の濫用」という法理を用いて、次のようにSの上告を棄却しました。

「所有権に対する侵害又は其の危険の存する以上、所有者は斯る状態を除去又は禁止せしむる為め裁判上の保護を請求し得べきや勿論なれども、(中略)第三者にして斯る事実あるを奇貨として不当なる利得を図り殊更侵害に関係ある物件を買収せる上、一面に於て(中略)侵害状態の除去を迫り、他面に於ては(中略)巨額なる代金を以て買取られたき旨の要求を提示し、他の一切の協調に応ぜずと主張するが如きに於ては、該除去の請求は単に所有権の行使たる外形を構ふるに止まり、真に権利を救済せむとするにあらず。即ち如上の行為は(中略)社会通念上所有権の目的に違背し、其の機能として許さるべき範囲を逸脱するものにして権利の濫用に外ならず。(以下省略)」

(大審院昭和10年10月5日第三民事部判決、民集14巻より引用、片仮名部分は筆者にて平仮名に変更)

 

ちょっと読みにくいかもしれませんが、熟読してみてください。

数多ある判例の中でも鋭く、溜飲が下がる思いがします。

私たちに最大限に保障されている権利も、過度に主張すれば、それは権利の行使ではなく暴力である、身近にもいろいろ心当たりがありますよね。

民法の最初に学ぶところですから、法学部で学ばれた方は、特に鮮明に記憶がおありでしょう。

若い時、友達同士で宇奈月温泉に行こうと言いながら、とうとう実現しませんでした。

今から一度は訪れたいところ、権利の濫用の宇奈月温泉です。