風紀は乱れるんです。
乱れるべくして乱れるんです。ここ2日はそんなことを考えていた。
学校には風紀委員というものがある。
たとえば、スカートはひざ上5センチまでだ。おとこの襟足は肩につかないくらいにしろ。ボタンは第一ボタンまで開けていいなど、とにかく生徒手帳というものに制服の着用の仕方などを記載して風紀を保とうとするのだ。
だがしかしスカートはひざ上15センチが可愛いと思うし、おとこの襟足だって長いほうが似合う人もいる。第二ボタンに至っては2個開けるのがもっとも楽で見た目もいいと思っている。実際私は守らなかったほうだ。まぁ、黒髪ストレートという髪型のおかげか際立って注意されることもなかったが(先生はとにかく明るい髪の生徒に目を付けるのだ)
すこしエピソードを考えてみた。
ここに風紀委員と不良がいる。
「正しく制服を着用することで、集団生活における協調性を学ぶのだ。自分を律することでしか集団行動はうまくいかない」
「確かに我儘な野郎ばっかだったら集団生活はまとまんないかもしんねーよ。だがな、よく考えろ? お前は先生と集団生活を送んのか? ちげーだろ。先生なんてもんは生徒30人に対して1人だ。俺らが協調性ってやつを発揮しなきゃいけねーのは、生徒とのわけ。第一ボタンまでしっかりしめた真面目そうなくそつまんなそうな奴と、ボタンもしっかりとめれねーばかそうな奴どっちのほうが第一印象で面白そうって思う? あんな、休み時間に英単語を覚えるような学生生活を送りたいと俺たちは思っちゃいないわけ。休み時間はくだらねーことで笑って騒いでバカしたい訳よ。それには見た目って奴も重要な訳」
わかるかなと笑う不良の笑顔は自分を馬鹿にしているようで気に食わなかった。伝わらない気持ちが暴走して体中を渦巻く。苛立っている。落ち着かない感覚に手が震えた。
「服装の乱れは心の乱れというだろう」
「乱れている? 乱れちゃいねーよ。俺たちはそうやって自分たちの美意識のなかで生きてんだ。そんでその美意識って奴を共有できるやつとつるんで楽しくやってるわけ。だからさ風紀だとかいって邪魔されたくねーんだわ。正しくなくて結構なの。ダサいままじゃいらんねーわけ」
分かりあえないかもしれないと思った。正しいのは明らかに自分だというのに、説得するだけの言葉を持ち合わせていない。同じ生徒同士だ。立場に権力なんてものは存在しない。対等な立場は言い負かされたほうの負けだ。
「でもさ、お前がやってることは正しいって思っちゃいるんだぜ? 正しい奴と正しくない奴どっちもいないと風紀委員ってやつは存在しない訳だ」
それは極論の話だ。泥棒がいるから警察がいる。怪盗がいるから探偵がいる。悪がいるから正義がいる。不良がいるから風紀委員がいるのだ。
「だからお前は俺を説得はできねーよ。俺は卒業するまでお前に怒られるし、お前は卒業するまで正しくいればいい。仲良くしようや」
そういって彼は派手な金髪を輝かせていた。ちっとも美しいとは思わない。親に授かった地毛こそが自分にもっとも似合うのだと思っていた。
「仲良くは出来ない」
「そりゃそうだ。でも俺はお前、嫌いじゃないぜ」
「更生の余地はないと先生には伝えておく」
「お好きにどうぞ」
「次の服装検査もたっぷり叱ってやる。時間を空けておけよ」
「了解でっす」
時間の無駄だ。分かっている。それでも正しい行いを続けることが、風紀委員の役割だった。
分かって頂けました?
風紀は乱れるんです。もうそれは仕方のないことなのです。そうやって両極端の存在があるからこそ、集団として落とし所が見付かるというか平均ができるというか、そうやって成り立っているのです。
ああ、風紀委員は必要だなと思った。そうしてまた自分の感性で戦う存在も必要なのです。