お久しぶりの投稿です、気がつけばもう5月も終わり、コロナ収束、なかなか手強いですね。第二波が来ている地域もあるようで。終わりそうで終わらない、まだまだ油断ならないし今少し我慢を強いられそうです、と言うか現在のこの生活スタイルから元のには残念ながら当分の間戻れない、と覚悟しなければいけない様ですよねT^T.
ほぼ100%の人がマスクをつけてる光景にさすがに慣れてはきたものの、それでもやっぱり冷静に考えたらこれはなかなか異様笑。

ここ数ヶ月ちょっと忙しくて、皆さんのブログにもあまりお邪魔できていませんでした、自分のブログも前回の投稿はなんと三月笑、こんな放置ブログにも関わらず、過去ブログにアクセス下さった方々、お名前分かりませんが笑、有り難うございました〜。m(_ _)m

さて、自粛巣籠もり生活、皆さんはいかがでしたか?
なんだか私はとにかくキッチンにやたら居ましたね、3LDKのマンションに住んでるんですけど、確実に他の部屋にいるより狭いキッチンに立っていた比率が高いです笑。
普段から外食をそれほどするわけではないんですが、時々行くお気に入りの小さなイタリアンレストラン、残念ながらここってどう考えても三密。なので行けず。まあおかげで節約ライフにはなりましたけど、笑。

さて今回はアリス・マンローや、ジュンパ・ラヒリの海外小説でもお馴染み、そしてまだそれほど知られていない作家にも目利き(この場合はきっと翻訳家)からこれは絶対いい、と紹介されたら出版に踏み切る、言わば出版業界の白洲正子、な新潮クレストブックスの本をご紹介。
3冊ほど読んだ中一番印象に残り、一気読み出来た「靴ひも」、というタイトルの小説です。原作はイタリア人作家、ドメニコ・スタルノーネ。ジュンパ・ラヒリが惚れ込んで英訳したと言う事で是非とも読みたいと思ってました。



非常にテンポが良く、どんどん読者がその小説世界に引き込まれ、固唾を呑みながら読み進める。そう言う意味ではミステリーっぽいんですが、ただ心理描写がただならないほど緻密でディープ。普通の家族の崩壊の裏側がこれでもかと丹念に、登場人物の口から語られていきます。

三つのパートに分かれ、「第一の書」はいきなりなんの前触れもなく、愛人を作って家庭を捨てた夫アルドに向けての妻、ヴァンダの9通の手紙が切々と綴られ、ここを読んだ限りではただの不倫もの?と思ってしまいます。しかしこの妻の夫への憎悪とその固執ぶりが恐ろしすぎるんです、9通ですよ!でどう考えても非は夫側にあるし、読者はまず最低な夫ぶりを見せつけられたこの時点で、若干辟易します笑。

続く「第二の書」今度は夫側の視点で、夫婦二人の出会いからいかにして、築き上げた普通の家庭が崩壊していったのかを、自分の不幸な生い立ちを間に挟みつつ吐露していきます。そして用意周到なプロットといい、緊迫感あふれる場面展開もまさに、ミステリー感満載で、読むほどに残酷さが際立つのにもはや読むのを止められない、そんなパートです。(ゾワゾワ感が半端ない!)

第一の書から何十年も経ち、いきなりヴァカンスに向かう老夫婦が登場するんですが、これって結構アリス・マンローにも良くある設定、手法で私は結構好きなんです、ワクワクする笑。
そうつまり夫は家族のもとに帰ってきたわけです、が、まあそう簡単にもとに戻れるほど人って単純じゃないですよね。
お互いにもう信頼回復はおそらく不可能、それをわかっていながら矛盾を抱えたまま一緒に住むことを選んだ二人が実に痛々しい。
夫アルドは幼い時に父親に暴力を振るわれた母を見て育ち、感覚を抑制するような習慣が身についている様な人。
一緒に再び住み出した頃、当然まだまだ精神の均衡が取れず苦しみ、鬱屈から抜け出せない妻ヴァンダにひたすら耐え、なんとかお互い支え合って生きて行こうと忍耐強く自分を抑え、穏やかに振る舞うんですが、(*もちろん罪の意識もあったでしょうから。)アルド自身幼少時に両親から受けた、消したくても消せないあの忌まわしい日々から(*自分は立ち直ったと思っているものの)決して解放されてなんかいないんですよね。

だからどうしたって無理がある。表面は秩序だった体裁を整えていても、愛人の写真を捨てられず、こっそり隠し持って眺めている訳で、本当にここは家族を再生したい気があるのかと糾弾したくもなりましたが笑。
もうこれって無秩序極まりないし、こんな歯車が噛み合ってない両親の元で育つ二人の子供、察して余りありますね。
でもここではまだ二人の子供サンドロとアンナの生の声はほんの少ししか聞こえてきません。

さてヴァカンスから帰ってきた夫婦の留守宅が何者かに入られ、恐ろしく荒らされてしまい、壊された家具と、散乱したもので足の踏み場もないほどになっています。愛猫のラベスも忽然と消えていて、ヴァンダは恐怖に慄き、、。

アルドはヴァカンスに行く直前に、自宅にやって来て勝手に家の中まで入り、ラベスを可愛がり老夫婦を安心させ、料金を多めに取った女宅配業者や、その直後知人を装い、あっという間にお金をくすねて逃げた見知らぬ男をまず疑いますが、、。(いやしかし老人になったらこうしていとも簡単に詐欺に会いやすくなるんですかね〜?。)
全て書いたらわかってしまうんで書きませんが、実はここまで読んだ時点で、ほぼ犯人はわかる訳です笑、だから決してミステリー小説ではない、ですね。(そこは著者も想定内ではないかと。)

で、最後の「第三の書」。ここでようやく40歳を超えた二人の兄妹、サンドロとアンナ登場!
靴ひもはイタリア語でlacci,英語だとties,つまり転じて人の絆、と言うことなのは家族小説なので最初から分かってました。
サンドロとアンナは亡き伯母の遺産を巡り、決裂状態。殆ど会うこともなかった二人が終盤会う場面から第三の書は始まります。
ちょっと二人の会話をここで。

「三人で食事をしてる時、お前が親父に聞いたんだ。俺の靴紐の結び方は、親父の真似なのかってね。」
「兄さんって、どんな結び方をするの?」
「親父と同じだよ、ほかの誰もしないような結び方さ。」
「それでお父さんは、兄さんも同じ結び方をするって知ってたの?」
「いいや、お前に言われて初めて気づいたみたいだった。感激して泣き出したんだ」

淡々と語られてはいたものの、この比喩で、私も初めてちょっと救われたように感じました。家族の絆は完全に切れてしまった訳じゃなかった、って。
本当に長い間燻り続けたまま、決して突破口を見つけられなかったこの家族の唯一の絆が、ここにあったんだと思えた瞬間。

そして何と言ってもここに来て初めて、特にアンナにとって如何に家庭が地獄であったかが切々と語られ、私自身も衝撃を受けます。きっと今まで誰にも正直な気持ちを言えず苦しみ抜き、ようやく年月を経て兄に語ることができたカタルシスによって、二人の距離も縮まったんでしょう。映画であればまず間違いなく泣けるシーンですね。

第三の書の、文字通りこの本の最後のエンディング、全然平和的な解決じゃないのに、不思議とある意味爽快感さえ感じました。もしかしたらこれを機にゼロからまた仕切り直せるかも、みたいな微かな希望さえ持てたと言うか。ここはまあ人によってきっと意見は分かれるかもしれないですけどね。

第一、第二、第三とそれぞれが別の方向、視点から、混じり合うこともなく家族の苦悩を描いて来て、最後にある意味帳尻が合う、三つの点が一つに一瞬重なり合う、そんな感触を得、どんな救いようのない人生もこんな風に最後に肯定感が持てる、と思えたのは、なんといっても著者の力量によるところ大、なんだとは思います。星マークほぼ五つ付けたい良書でした。

最後に今日のミュージック、ヴァン・モリソンを。アルバム「Duets 」より。掘り出し物のアルバムです、コレ!改めてまたレビューしたいくらい。全曲いいですがとりあえず二曲,メイヴィス・ステイプルズとのデュエットで「If I ever needed someone」、
それからジョージ・ベンソンとのデュエット曲「Higher than the world 」を。





おまけ。童心に帰ってこーんなこともしてました笑笑
  
(読売新聞に掲載されていた折り紙で作ってみました。あともう一個サクラソウ
ってのもあったんですが、難易度が高く失敗笑)

...❓❓❓笑