< 前回のお話 >
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僕たちの寝室で居眠りしてたのであろう猫のジュリーが
尻尾を振って優雅に歩いてきた
シルバーの細い毛並みが光ってみえる
つぶらな瞳を潤ませて
甘えた声を出している
「ニャーーーゴ」
お腹が空いたのだ
ジュリーは僕の足元スレスレを歩いて
ズボンの裾にしっぽを撫でつけて横切って行った
僕の向かいに座る彼女の膝に跳び乗った
彼女はジュリーをやさしく抱いて、席を立とうとした
僕は言った
「そのまま、座っていなよ」
「ありがと。でも、ジュリーのごはん 用意しなきゃ。」
彼女が言った
「僕がするよ」
僕はそう言うと、キッチンの戸棚から缶詰をひとつ取った
缶をお皿に開けると、ジュリーがこっちにやってきた
「ナァ〜〜〜ゴ」
ジュリーはさっきより甘えた声を出して、すり寄ってきた
そうして舌舐めずりをして、ごはんを食べ出した
「それから…」僕は冷蔵庫の中を見ながら言った
「今夜の食事は僕が作るよ。きょうは疲れたろう?」
ベーコンを手に取り、僕はにっこり笑って見せた
「わぁ〜!うれしい!!1」
彼女の目がまん丸になって輝いた
「パスタで良ければだけど、、」
僕は言った
「うれしい!パスタがちょうど食べたかったんだ〜」
彼女は言った
今日、彼女は朝から街に出かけていた
彼女が今度出す本の出版社との打ち合わせだ
話し合いは午前中に早々と済んだので、お昼は出版社近くのイタリアンでランチを食べてから帰ろうと思ったのだが、
どこのお店もお客がいっぱいで、中へ入れなかったらしい
「結局、パン屋さんでピザパンとメロンパンを買って、公園のベンチで食べたのよ〜」と
悔しそうに彼女が言った
「でも、店へ入れなくてよかったわ
だって、公園には木陰がたくさんあってね
気持ちよかったし、
その公園、噴水がきれいでね
後でこっそり、足を浸けてきたの、うふふ
冷んやりして、スーーーっと汗が引いたわ、涼しかった〜」
彼女はささやかな日常をほんと楽しそうに話す
ひとりで居ても誰と居ても、楽しい様子は変わらない
僕は彼女の 妻の笑顔が好きだ
「それから…」
彼女が続けて言った
「あなたの作るパスタ料理が食べれるんですもの
これは神様がお昼にパスタを食べるなと、
止めてくれていたのね」
こういう、見えないチカラのエネルギーを信じている彼女が
いつまでも少女のようで僕は可愛いく思う
「食事の用意する間、風呂に先入ってなよ」僕は言った
「わーい!ありがとう〜!お言葉に甘えて、そうする〜!」
彼女は屈むと、猫のジュリーの頭を撫でた
「ジョン、わたし幸せよ」と少し はにかんで彼女は言った
僕は彼女の両手を手に取り立たせてやった
そして、彼女の腰に手をまわし抱き寄せた
彼女は黙っていた
僕も黙って彼女を強く抱きしめた
彼女の肩が微かに震えだした
僕がどうしたのか?と訪ねて、彼女の顔を見つめた
彼女は首を振るだけだった
目には涙が浮かんでいる
目には涙が浮かんでいる
僕は彼女を更にぎゅっと強く抱きしめた
彼女は僕の胸へ顔を深くうずめた
部屋は静かだった
時折、ジュリーの皿を舐める音が床に響いた
すると突然 ピーピー!
音がした
二人で顔を見合わせた
二人で顔を見合わせた
ジュリーが怖がって唸り声を出している
彼女がクスッと笑った
なんてことない
冷蔵庫が空いていたのだ
古い冷蔵庫で閉めるときに
しっかり押さえてやらないと扉が勝手に開くのだ
僕が「しょうがないな〜」と冷蔵庫の扉を閉めた
彼女もそばについてきた
彼女は僕の後ろから腕をまわしてきた
白くほっそりとした美しい腕だ
僕は彼女の腕をやさしく撫でた
彼女は僕の背中からするりと手を解くと
バスルームへと消えて行った
僕はさっきの彼女の涙の理由を聞かない
理由は知っているから
僕は気を取りなおしてキッチンに向かい
まな板と包丁と取り出した
玉ねぎとニンニクの皮を剥いて刻み出した
目にしみて、さっきの彼女みたいに涙が出てきた
僕の得意料理のレパートリーは数少ないが
パスタ料理が得意であるのには
田舎の祖母に教え込まれたからだ
鍋の湯を沸かしながら、僕は祖母を思い出していた
沸き立つ小さな泡を見つめながら
< つづく >