<完結編>胸にザワつきが止まるまで
時折、赤信号で止まるたび女が運転席からこちらに振り返る。
息子は超ご機嫌だ。
話は続いた。
60枚も写真を撮ったということはそれを貼り付ける紙も60枚になる、
「それって最後どうするの?」女が言った。
息子はいとも簡単!というように「全て蛇腹に繋げるのさ」得意気に答えた。
目を丸くした女が言った「すごーい!流石!天才!」
ここで信号が青になった。
信号が変わったので私は眉毛を動かしフロントガラスへ目をやった。
女は私のそれに気づいたのか前へ首を向きなおした。
と瞬間、後ろで待つワンボックスカーからプッ!とクラクションが鳴った。
女は慌てて、アクセルを踏む。再び車を走らせた。
コンビニが見えてきた。駐車スペースののぼりがハタハタと風になびいている。
どうやら外は風が強いらしい。歩道を歩く人の髪が皆逆立っている。
風になびいているのぼりがそのうちに倒れだしそうだ。
主要道路から脇に入った細道沿いに黄色い花が咲いていた。風に揺れいる。
「菜の花だ!」わたしは言った。「綺麗な黄色だね~」
息子が窓の外を見た。うん、と頷く。
女が言った「春ですねー」
わたしは言った「ですねー」
ようやく家に着いた。
わたしはシートベルトを外した。息子のも外してやった。
ベルトは元の場所へとシュルッと戻っていった。
女は車を止めると素早く外に出て、ドアを開けてくれた。
「ありがとうございました」わたしが言った。
「いい~え~」女は照れるように微笑む。
息子も出てきた。足がドアに当たりそうになり女が手を貸す。
息子が言った「ありがとう」
女は笑ってうんうん頷く。冷たい風が吹いていた。
わたしは襟元深くジャンパーのファスナーを上げた。
「さっきより冷えますねー!」女が言った。「時間帯ですかね?」
そう言って運転席に乗り込んだ。
わたしたちは玄関の前で二人で並んでいた。
白い花を咲かせたユキヤナギが風で揺れている。
女はドアを開けてわたしたちの方を見て言った「寒いから先に入ってくださいね」
わたしは言った「ありがとうございましたー」
女はニッコリ笑った。そして車が見えなくなるまで私たちは手を振り続けた。
不思議とわたしの胸のざわつきは治まっていた。
それがどうしてなのか
眠る前にわたしは息子に説明しようとしても、言葉が見つからなかった。
<完>
お読み下さり
ありがとうございました
Anne Joy