1950年頃にアメリカから供与された新拳銃の中に、オートマチックでありながら唯一入っていたのがコルト ガバメントことM1911だ。
第一次世界大戦及び第二次世界大戦時に膨大な数量が生産され、第二次世界大戦が終了するとともにやはり膨大な数量が余剰となり、日本の警察にも供与された。
当時のアメリカの警察で使用されていた拳銃は圧倒的に38口径のリボルバーであり、45口径のオートマチックが警察用として向いているとは、さすがにアメリカ軍も思っていないから、どちらかと言えば38口径のリボルバーの補助的な意味合いが強い。

実際にどれくらいのM1911が供与されたのか、手掛かりとなるのは以前にM1917編の冒頭で引用したGHQの文書しかない。

警察業務の能率が,充分な武器とそれの正しい使用法についての訓練に大きく依存していたため,連合国最高司令官は,1948年10月に,警察の最小限の要求を満たすだけの数のリボルバー〔回転式連発拳銃〕と弾薬を米国陸軍の余剰在庫から放出し,日本政府への貸付として配給するため,最高司令官に送るよう要請した。陸軍当局はこれに同意し,12万5000名の正規警察官の1人につき1丁のリボルバーを供与する計画を立てた。ホルスター〔拳銃入れ〕は入手できなかったので,拳銃が引き渡される時までに,それを造る契約が日本の製造会社と結ばれた。

 入手できた在庫品に関する最初の調査によると,拳銃は45口径約9万1000丁,38口径約3万4000丁のリボルバーかピストルであることが明らかとなった。これらの拳銃の弾薬は45口径が910万発,38口径が340万発の弾丸であった。1949年7月1日までには約1万4000丁のリボルバーの最初の船便分が支給され,1年後には3万6668丁の38口径リボルバー,5万942丁の45口径リボルバーおよび1万4160丁の45口径ピストルの,合計10万1770丁の拳銃が支給された。すべての国家地方警察官が38口径リボルバーを受領し,自治体警察官は38口径の残存在庫品と45口径を加えた拳銃を受け取った。1950年末までには約400名を除くの全警察官が武装され,1951年5月には必要であったわずかに残った最後の拳銃も受領され,支給された。

「GHQ日本占領史 第15巻 警察改革と治安政策」連合国最高司令官総司令部 竹前栄治, 中村隆英 他/編

当初はリボルバーを希望したのだが、リボルバーだけでは数が揃わなかったということになる。
そしてM1911の数量ではっきりわかるのは、1950年までに供与ざれた拳銃101,770丁のうち14,160丁。
その後1951年までに追加で供与された23,230丁(ここでは予定通り125,000丁全てが供与されたとして計算)の銃種は不明で、45口径や38口径の両方が含まれていたと見るべきだろうが、M1911がどれだけ含まれているのかはわからない。
という事で、M1911の総数は最小で14,160丁、最大で37,390丁、その間のどこかという程度しか言えない。
これは日本警察に供与された拳銃に占める比率でいうと11%~30%となる。
ただし、どうも日本の各都道府県自治体警察への配分状況を見ると、配分された時期が遅い地区に配分されたのは明らかに38口径リボルバーがほとんどであり、その事からすると実際にはどちらかというと下限に近い数字が実態に近いと思われる。

次にM1917編と同様に、今度は日本側の記録からM1911の配分状況を追ってみたい。
M1917編で書いたが、M1917の場合は都道府県警察史などの資料でみると、驚くほどその存在感が希薄である。
これは日本警察に供与された拳銃のうちM1917が過半数を超えるくらいの大量の数量であったとしても、配分地域が六大都市警察という極めて限定された地域に集中して配分されたからであると思われる。
それに対してM1911の場合は逆に意外なほど広い範囲に配分されており、非常に存在感がある。
とはいえ、M1911はM1911で、M1917ほどではないにしろ配分地域に偏りがある。

とりあえず都道府県警察史などを元に、東から県ごとにM1911の配分状況を見ていこう。
ちなみにM1911の場合はM1917と違って大規模ユーザーが少ないため、あまり突っ込んだ記録はない。

福島県
(略)なお、貸与けん銃は、回転式と自動式で、その種類はS&W,Colt,Commando,Coltoffなどである。(略)また同じ座談会のなかで、元本県警察の刑事部長をしたことのある藤本進氏は、「自治体警察は四五口径の拳銃を持ってたんです国警は三八口径で小さいものだったんです」と語っている。
「福島県警察史 第2巻」 福島県警察史編さん委員会 編

以前にも引用したが、福島県警察史の記述はあいまいである。自治体警察にM1911が存在していたととれるが、なんとも言えない。東北地方の自治警に配分された拳銃については、以前にも書いたとおり「38口径のリボルバーが主流」「配分時期が遅いため複数銃種が混じる」という傾向がありそうなので、配分された中にM1911が混じっていた可能性が高いといったところだと思う。

栃木県
本県では昭和二十四年十月十日、まず国家地方警察側にSW回転式スペシャル三八口径けん銃が配分され、ついで昭和二十五年十月十三日、自治体警察側にコルト自動式四五口径けん銃が配分された。
「栃木県警察史 下巻」 栃木県警察史編さん委員会 編
ちなみに栃木県自治警の人員は宇都宮市警130名を筆頭に890名であるので、供与されたM1911の数量は890丁と推定される。

群馬県
(略)同年(昭和二十四年)九月国家地方警察官へはS&W三八口径回転式、自治体警察官にはコルト四五口径自動式が個人貸与され、警察官のけん銃常時携帯が実施された。
けん銃の弾丸はS&Wについては六発装てんして予備だま一二発の一八発、チーフスペシャルは五発装てんして予備だま一〇発の計一五発、コルトは七発装てんして予備だま一四発の計二一発を所持させた。
なお、予備だまは、ばらのまま予備たま入れに収納していたが、吾妻地区警察署勤務巡査藤井省三がS&Wについて六発、チーフスペシャルおよびコルトディテクティブについては五発を固定して収納できる、次図の予備たまケースを考案した。本県では、昭和二十八年六月二十九日「けん銃予備たまケース使用及び取扱要綱」(群本例規第三八号)を定めている。




「群馬県警察史 第2巻」 群馬県警察史編さん委員会 編

この記述だと、国警と自治体警察に同時に拳銃が配分されたようにとれるが、それは考えにくい。全国でも同時に行われた例はないし、自治警への配分が昭和24年9月だとすると、群馬県自治警への配分が全国の自治警で最も早く行われた事になってしまうため、無理があるように思える。昭和24年の配分は国警のみで、自治警はその後だったと考えるのが自然に思える。
また、混同された書き方だが、チーフスペシャルおよびディテクティブは供与品ではなく、昭和26年の新規購入品である。どちらが自治警で、どちらが国警なのかはわからないが、おそらくはチーフのほうが国警であると思われる。予備弾の項目でチーフススペシャルだけ出しているのは資料が国警中心であったからと思われるし、予備弾ケースを考案した巡査の所属する吾妻地区警察署というのは国警なので、私服用のスナッブノーズの予備弾入れが五発収容なのも、国警のチーフスに合わせたと推定できるからである。
全弾装填に加えて予備弾をリロード2回分持つのは群馬県だけでなく、当時の日本警察全体の規定であるが、独自の予備弾ケースを開発して装備していたというのが群馬県の警察史の最も興味深い記述である。
また下の写真からは、国警分がS&W ミリタリー&ポリス(ビクトリー)、自治警分がコルト M1911A1であり、栃木県と共通と思われる。
群馬県の自治警の定員は932名なので、M1911の配分数は932丁となる。

埼玉県
本県では、同(昭和)二十四年九月十九日、コルト・コマンド三八口径(廻転式)が国警に、翌年(昭和25年)十月一四日には自警にコルト・オートマチック四五口径(自動式)、また、私服勤務員には、小型けん銃が貸与された。そして国警の警察官は、たま六発を装てんして予備だま一二発。自警の警察官は七発を装てんして予備だま一六発。小型けん銃は五発を装てんして予備だま一〇発を所持させた。
「埼玉県警察史 第2巻」 埼玉県警察史編さん委員会 編

全国の国警に配分されたのは圧倒的にS&W ミリタリー&ポリス(ビクトリー)が多く、コルト オフィシャルポリス(コマンド)は少数派で、関東では埼玉県のみである。もっと言えば日本の警察に供与されたリボルバーは45口径も含めて圧倒的にS&Wが多い。
また、チーフススペシャルについては群馬県警察史と同様曖昧な書き方だが、これは供与品ではなく新規購入分である。確認できる限りでは、なぜかどの都道府県も国警と自治警では銃種を変えているので、チーフスは国警で、その他に自治警のディテクティブが存在した可能性がある。
ちなみに配分時期が確定している中では、(先に挙げた群馬県を除けば)埼玉県自治体警察が全国で最も配分が早く、警視庁よりも1ヶ月早い。
45オートの予備弾が14発ではなくて16発というのはおかしいので、この部分は間違いかもしれない。
埼玉県の自治警の定員は1330名なので、M1911の配分も1330丁となる。

茨城県
茨城県については、実ははっきりした記録は見つかっていない。
唯一手掛かりになるのは、月刊「GUN」1990年2月号の連載記事「カレイドスコープ」の中で、イラスト担当の明日蘭氏が書いた2例の目撃例くらいである。ここでは年代は不明ながら「たまたま隣に座った署長らしい警察官が持っていたブルーイングが綺麗な新品同様のGM」「イサカ製のパーカライジングが磨り減ったGM」の二つの目撃例が紹介されている。
明日蘭氏の記述では「ブルーイングが綺麗なGM]は新品であるように書かれているが、日本警察が戦後に新規でM1911を購入した記録やそうする理由も存在しないので、工場でオーバーホールされた銃であると思ってよいと思われる。
という事で茨城県については確証は無いが、おそらく自治体警察にM1911が配分されたと思ってよいと思われる。
茨城県自治体警察の定員は782名なので、おそらく推定配分数は782丁となる。