同居している3才になる孫は、発達障害(ADHD)です。

自分の興味が引かれたことに突進していき、次から次と興味が変わり、少しの間もじっとしていずに動き回ります。興味が尽きるまで動き回るので、40を過ぎている息子夫婦はついて行くのが大変です。周りを見ずに突進していくので、危険を回避できるように片時も目を離せません。有り余るパワーを持っている子なので、毎日どこかで思いっきり遊ばせてやる必要もありまして、お嫁ちゃんは日々疲れさせられています。それはもう、気の毒なほどにです。自分のペースでしか動けません。例えば、お医者さんへ行くからコート着てと言えば、

「嫌だ、もしもしには行きませ~ん」と必ず言うので、そこから玄関を出るまでが一苦労です。

 お風呂に入れるために階下に下すためにも毎日同じバトルが必要なのです。そして、自分が外へ出たいときは、はだしのまま、勝手に玄関を開け、門扉も開け、出て行こうとします。

それを必死で止めないといけないばあばですが、アラ古希で半身麻痺のばあばには、この子について行けるはずもありません。

 動きが活発で、興味本位に動きますし、自分の意思が通らないと、通るまで泣け叫び怒ったりもしますから、周りに怒られる機会の多い子だと家族は認識しています。だから家族は、〇ちゃんのやりたいことが十分にできるように付きあっています。

 家族は、〇ちゃんが、日々楽しく暮らしていてくれればそれでいいと思っています。日々を楽しく元気に育ってくれればと願っています。 

 幸い、人懐こくて、人や一緒に暮らす犬猫にも優しくて、いつも笑顔のかわいい子ですから、出会う人々に可愛がられています。

 ばあばは、情緒の豊かな優しい子に育ってほしいと願っています。

桜の季節ですから、一つ仕掛けを考えました。

まだ蕾の桜並木を見ておいてもらい、次に連れて行ったときにそれが満開になっているのを見て、〇ちゃんに感動してもらいたい、というものです。〇ちゃんならきっと自分で発見して、感動の声を上げるに違いない、それをばあばが見たいというものです。

 お嫁ちゃんに思いを伝えて、まずはつぼみの桜を見に行くことにしました。コミュニティセンターの横の丘の桜でいいでしょうとお嫁ちゃん。前の週に金曜日にと言われ、咲いてしまったらどうしようと思ったのですが、3日前に未だ蕾だったのでいけるかもと思い、センターのレスTランで、アイスクリームでも食べに行こうということで出かけました。センター前の広場に着くと丘の上の桜は、もう咲いていました。私は、シニアカーで、〇ちゃんは、お母さんの自転車の前に乗っています。桜の下で止まりました。さあ、なんと声を掛けたらいいのでしょう。考えた末に

「〇ちゃん、この木何の木か知ってる?」

「さくら」

マルちゃんの即答に、お嫁ちゃんと、私は思わず歓声を上げました。

「〇ちゃんすご~い。知ってたのね」

「おかあさん、あれは?あのアジサイ色は何?」

「分らないごめん、宿題にして」と、お母さん。

「どれですって?」ばあばも振り返ってみました。後ろのまだ花の咲かないサツキの生け垣の間から、確かに紫色の花が見えます。どれどれとばあばが近づいて見ましたが、名前の分からない草花でした。生垣の間から、蔓を伸ばし数本生垣に這わせて、連なる紫の花を数本咲かせています。

「しかし、よくあの花に気づいたものだわね」ばあばは感心しきり。

「黄色は?黄色は何?」

次に〇ちゃんの興味を引いたのは、広場中央の花壇の花でした。

色とりどりの花が咲いていて、黄色のパンジーが広い面積を占めています。〇ちゃんの視線の正面は黄色のパンジーでした。

「あの黄色い花はね、パンジーだよ」

「パンジー?」

「そう、パンジー」

 それから私たちはレストランで早めの昼食を済ませて、近くの公園へ行きました。〇ちゃんとお母さんは、自転車を置いて徒歩で、ばあばはシニアカーで、センターの建物沿いに設えられた人口の小川と桜並木の道を心地良いお天気で中散歩しながら行きました。

 〇ちゃんの場合、行きはよいよい、帰りは怖いです。行きは滑り台のある公園へ行くという目的があるので、あれこれの興味に引っ掛かり道草しながらもどうにか進めます。が、やっと滑り台を終わりにして、公園から連れ出しても、なかなか自転車の所にさえも辿り着きません。いつものことながら家に連れ帰るのが大変なのです。20mほどの桜並木を何度も途中まで進んでは往復しています。おばあちゃんが先にいると、おばあちゃんが迷子になると追いかけてきてくれるのですが、小川の飛び石を何度も渡ったりして、ちっとも進まず、ばあばはしびれを切らして何度も〇ちゃんの所に戻りました。

「白いのは、白いのは何?」

〇ちゃんが気になっていたのは、一本だけある真っ白な桜でした。

薄紅の他の桜は、4・5分咲きで、まだ花がばらついて見えますが、真っ白な桜だけ満開で、花のつき方が、枝先に小手毬のように丸まって咲いていて、真っ白でとても可愛らしいのです。ソメイヨシノと思われる薄紅の桜も、満開になれば、小手毬のようになりますが、その時は未だまるで別物に見えました。〇ちゃんにもその違いが分かったのです。私は、桜の名を八重桜とソメイヨシノしか知りません。国内に3百種ほどある桜の元は、すべてソメイヨシノだ聞いたことがあるような記憶があり、間違いではないだろうと、「ソメイヨシノ」と答えました。納得できなかったのか、言いにくくて覚えにくかったのか、何度か戻って、お家に帰ろうというと、

「白いのは何?」とまた聞かれます。

「あっちのピンクの濃いのは八重桜で、これはソメイヨシノ」

そんなことを30分も繰り返して、私は二人を置いて、先に帰りました。

 すると、間もなく二人は帰ってきましたので、なんだ、私が先に帰ればよかったのかと思いましたが、お嫁ちゃんが言うには、自転車に乗ってからも、「白いのは何?」と聞かれて、かの桜の所へ戻って、

「木札を見て名前を確認して、『大島桜』と教えたら、納得して帰ってくれたの」とのことでした。〇ちゃん的に納得のいく名前だったんですかね。

 納得がいくまで追及を止めない我が家の3歳児は、発達障害と診断されていますが、とても可愛くて、面白いですよ。

 ふと、ばあばは思いました。この子を造幣局の桜の通り抜けへ連れて行ったらどうなるのかしらと・・・。種類の違いにわくわくするのでしょうか?連れて行ける年頃まで、桜に興味を持っているかわかりませんがね。

 余談ですが、それから1週間後、かの大島桜がどうなったかを見に行きました。並木のソメイヨシノは満開で、かの大島桜は散っていましたが、その色はなんとピンクだったのです。木に残った花も、地面に散った花びらもソメイヨシノと同じ色をしていました。どういうこと?あの真っ白な花は、どこかで薄紅に変わった?いつ?

 来年の課題ができました。花が咲き始めたら、毎日大島桜を見に行きましょう。これを書き始めたのは、3週間ほど前のことです。桜が散り始めたので、大慌てで、書き切ってアップします。

 あれから〇ちゃんは、遊びから帰ってきて、

「イズミヤさんの所にも桜咲いてたよ」とか、教えてくれていましたが、昨日神戸の王子動物園で満開の桜を見た時には、

「また桜!」って、言ってました。それでも、道の両脇から、満開の桜の枝が張り出した道を通るときに、「桜のトンネルだね」って、言って私たちを驚かせてくれました。聞いていないようで、大人の話をよく聞いていて、感性豊かに言葉を取り込んでゆきます。

 発達障碍児と言われていようが、〇ちゃんは、半身麻痺で、アラ古希のばあばの行動の源で生きがいです。桜の違いに拘る〇ちゃんが、大好きなばあばです。