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晏名アサミのdraftbox

他ブログやコラムになる前の下書き置き場。
ライヴ、映画、音楽、美術など触れたものに関する感想、
ふと思いついたことなどを書きなぐる場所。


ゆえに文章整ってないのと、あまり他者意識しないつもり。
その日の気分で人称違ったり、矛盾でてくるけど気にしない。

雲居の音



盆の季節だ。
父の墓にいってきた。

新盆と旧盆の間に、
妹が子を産んだため
去年より一人多い。

じりじりと太陽が照りつけて、
青空が広がり、
風はなく、
全く彼に似合わない日だ。


8年も経つとあまり父のことを
思い出すこともあまりなく、
ぼんやりしたイメージで参った。
元気でやってますよ、とだけ言ってきた。

墓地から今の家まで移動している間に
一時期住んていたアパートがあり、
ついじっと見てしまった。


父の死後、母と私と妹で引越しした。
荷物をアパートに運びこむとき、
他の引越し業者をみて
誰かがここを出ていくんだなと思って
部屋まで行った。

ちょうど、隣の部屋の人が鍵をかけていた。
ああ、先ほどの引越し業者は彼らのか、そう思いながら通り過ぎようとしたら。

その夫婦の旦那さんの顔に見覚えがあった。
父の最期の時の執刀医だった。


父は発作が起きて救急車で運ばれたので、彼が執刀したときはたぶん、
手遅れだったと思う。
すでに脳は死んでいて、経過や原因、今後起こりうることを説明して、
脳死でも心臓を生かすか聞いた人だ。



あの時、
私は誰よりも早く、
否、と答えた。


彼が好き勝手やってきたことで、
私たちの未来は暗かった。
その上にこのまま延命治療をすれば、
さらに未来は暗くなり、
生きている間に父を許せなくなりそうだったから。

母と祖母は迷っていた。
だが私の回答の早さと決然とした態度にゆるゆると同意した。


あの特殊な空間にいた者のほとんどが
このアパートの渡り廊下に集合していた。
偶然とはいえ、こんなところで遺族と
でくわすなんて、やりづらい。


先日はありがとうございましたと挨拶をして、彼らは階段を降りて行った。
幸い、私たちは入れ違いだったから
その気まずさは数分ですんだ。

私は顔を伏せた。
決然と父の死を決めた自分の顔を
見られたくなかった。



ふと、そんなことを思い出した。
蜘蛛の糸



蜘蛛の死骸が落ちていた。
便所の片隅に隠れるように。
汚物入れの裏にいたそれをみて、
同じ位置に汚物入れを戻した。

一本の細い細い蜘蛛の糸が切れて、
これは転落死したのだろうか。
望みの糸を断たれて、
失意のままに死んだのだろうか。


黒ずんだ死骸はまるで標本のように
じっと佇んでいた。
それは気持ち悪くて滑稽で、ずっと見ていたい感じがした。
しかし、それを見つめている私を
誰かが見ている気がして、見るのを我慢した。


蜘蛛の糸を想像してみた。
蜂蜜をそっと垂らしたときのような
黄金色の糸が
ふっつり、と切れて
空を漂うさま。
美しいなと思った。


いつの間にか私の体が蜘蛛になっていた。
スローモーションで進むこの光景に
見蕩れながら、
地の果てへ落ちていった。
君の痕跡をどんなに追っても

どうにもならないことを

僕はあきらかすぎるほど
知ってしまった