桜を見ると 坂口安吾の「桜の森の満開の下」を思い出す。
30ページの短編ですが、桜が咲くと読みたくなる本です。


安吾曰く
桜の下で宴会している人達がいると 華やかでにぎやかだけど 
それを取りさってしまえば 気が変になってしまうほど 冷たく恐ろしい景色だというのです。

いわれてみればそうかもしれません。
1本の桜ではなく 桜の森にただ一人佇むと ( ゚д゚)!
足がすくむほど美しく怖くなるかもしれないよね。

花の下では風がないのに
ゴウゴウ風が鳴っているような 気がしました。
そのくせ風がちっともなく、1つも物音がありません。

自分の姿と足音ばかりで、
それがひっそり冷たい 動かない風の中につつまれていました。

花びらがぽそぽそ散るように
魂が散って命がだんだん衰えていくように思われます。


(作品から抜粋)

この作品では 桜の森の満開の下には鬼がいるといいます。
よく桜の木下には死体が埋まっているというのと同じですよね。
日本人の心にある桜は一種の霊的なものかもしれない。
満開の桜の森は異次元空間につながっていそうな気がしますね。

この話のラストは本当に美しく悲しいのです。

ということで 今日はその作品の一部分を抜粋したいと思います。

興味のある方は読んでください。
古い作品ですが本当に読みやすくまた感動的です。

女の屍体の上には、すでにいくつかの花びらが落ちてきました。

彼は女をゆさぶりました。呼びました。抱きました。徒労でした。
彼はワッと泣き伏しました。そして彼が自然に我に帰った時、
彼の背には白い花びらがつもっていました。
そこは桜の森の丁度真ん中あたりでした。
四方の涯は花に隠れて奥が見えませんでした。
日頃のような恐れや不安は消えていました。
花の涯から吹き寄せる冷たい風もありません。

ただひっそりと、そしてひそひそと
花びらが散り続けるばかりでした。


彼は初めて桜の森の満開の下に座っていました。

いつまでもそこに座っていることができます。
彼はもう帰るところがないのですから。

桜の森の満開の下の秘密は誰にも今もわかりません。
あるいは「孤独」というものであったかもしれません。
なぜなら 男はもはや孤独を怖れる必要がなかったのです。
彼自らが孤独自体でありました。

彼は始めて四方を見廻しました。頭上には花がありました。
その下にひっそりと無限の虚空がみちていました。

ひそひそと花がふります。それだけのことです。

外には何の秘密もないのでした。


(昭和22年 坂口安吾 「桜の森の満開の下」)

さくら

著者: 坂口 安吾
桜の森の満開の下
映画
桜の森の満開の下

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