深夜の1時過ぎという時間に、前の通りからの凄い音量が、建物の室内まで鳴り響いたの。
窓から眺め見ると、想像通りに、消防車やパトカーの列。
そこに火の手や煙りも見当たらない。
よくあるとまでは言わないけど、たまにある光景。
うんざりだわ。

何らかの根拠というか、何かしらの事情があったという事もあり得るけれど。
ガセネタ?
そんな思いに駆られる。
人騒がせもいい加減にして欲しいわ。

迷惑行為して喜ぶ。
今の国際情勢と並び合せ考えるのは、逸脱しているけれど。
あらゆる事が自我の利益を基としている。
政治も経済も、混沌としたカオスを思うの。
電車がホームに到着している事を音で察し、エスカレーターの右側を駆け上がる。
そんなことさえ無い、昨今の私の日常。
運動不足を案じる事も無く、何故なら運動能力さえ問う機会が無いから。
要は生活範囲、行動範囲がとても狭くなっているということ。

頭のどこかで、運動による活性酸素のせいで老化を促進させるという、言い訳が鎮座しているのは認める。
大事なのは運動能力で、生活に支障を来さないための、健康保持なのは分かっている。
そしてまた多分、いつでも数キロのジョギングなら難なくこなせるだろうという、体力神話さえ持っている。
いつか、こんな生活習慣が続くなら、体力低下に苛まれることにもなるだろう。

・・・そんなことを考えなくも無いの。
ひと言で言うと、ど忘れという言葉を使うしかないのだけど。
人の名前など特に、画像は浮かんでも、白紙のように出て来ない。
何なのだろう、この記憶の引き出し能力の低下はと。
これもまた身体能力の低下って事なのね。


化粧品かごの中に、なにげに貯まってしまっている、一回分サンプル品など。
何かの時に役立つと思いつ、いっこうに機会が来ない。
そうよ今、こんな時に使うべしと、かごの隅から拾い上げて使ってみた。

中身のクリーム全部を絞りだし、残すのは勿体ないとの熱心さに余念が無い。
時に、一回分に足りないような、また多すぎるような。
気持、まだ少し残っていると思うとき、それをテーブルの隅にとっておく、意外とケチ臭いところもある私なの。

ほんのちょっと、そういう思いで、さっきの袋のクリームを指でしごき出してみたの。
すると、なんと見事な。
クリームは、まるで糸のように宙に浮かんだ。
そしてまた、なんと見事な。
すかさず私の手は、拾い受けた。

感激するほどのことは無い。
いやいや断じて感激してもいい。
私の反射神経は、想像以上に健全だったのだから・・・。




彼女の家を出て、彼女がお見送りしてくれながら、手渡しくれた花の名はクレマチス。
玄関近くの、鉢植の花であるのは明らか。
初めて間近で見て、花の名前を聞いたのも初めてかもしれない。
中央の蕾みたいのは、種弁かしら。
うっとりするほど美しく、しとやかでシック、厳かで華やかささえ私は感じていた。
・・・


私にとっては、女友達というより、お客様の色合いが濃い。
だけど長年のお付き合いだから。
お店の営業時間が過ぎ。
飲み足りないと言うので、お店を仕舞い、タクシー拾い彼女の家へと向かった。
部屋には、来店時の連れのオジサンと、お店の子と、私の四人。

雑談は、お酒飲みを巡る彼女の、ご近所付き合いを理解させた。
決して品の良くない、がらっぱちな下町言葉。
最近、購入したという三味線を見せてくれた。
思えば触れたのは初めてかも知れない。
そして、拾って治して磨いた尺八も。
彼女はリードギターを担当する、バンドの一員であることは周知で。
先日には、私もライブハウスのイベントにお邪魔した。
音楽家であることだけが、好奇心旺盛にしているのでは無いと思った。

今度は、最近手に入れたと言う、お気に入りというドレスを取り出してきた。
この私にも、似合うかもと言う。
黒でシースルー系の重ね着する上下ドレスは、フェアリー感がある。
「アナタ、先に着て見せて、着方が分からないから」。
換わって私も、サイズが合わないと思いつつ、試着してみる。
目の前での、目隠し無しでの着替えは、お互いに羞恥心の無いところ。

赤ワインを二本空け。
オジサンはケイタイで、奥さんと「早く帰宅するように」と怒られ、何度も遣り取りしている。
このお酒、いつまでたってもキリが無いかも知れない。
私は率先するように、おいとまを告げ、お店の子と席を立った。
後を追うように、彼女は見送りで後について来てくれた。
玄関正面の道路の横断歩道を渡ったとき、彼女が差し出した一輪の花。


・・・
彼女が何を思い、なぜに一茎摘み取り、私にくれたのか。
たぶん咄嗟のことに違いない。
私も思いがけなく、その意図について、考えを巡らしていた。
「ありがとう」の意味だろう。
しかし本来、「こちらがありがとうなのに」。
クレマチスの花弁もフェアリーだ。