
彼女の家を出て、彼女がお見送りしてくれながら、手渡しくれた花の名はクレマチス。
玄関近くの、鉢植の花であるのは明らか。
初めて間近で見て、花の名前を聞いたのも初めてかもしれない。
中央の蕾みたいのは、種弁かしら。
うっとりするほど美しく、しとやかでシック、厳かで華やかささえ私は感じていた。
・・・
私にとっては、女友達というより、お客様の色合いが濃い。
だけど長年のお付き合いだから。
お店の営業時間が過ぎ。
飲み足りないと言うので、お店を仕舞い、タクシー拾い彼女の家へと向かった。
部屋には、来店時の連れのオジサンと、お店の子と、私の四人。
雑談は、お酒飲みを巡る彼女の、ご近所付き合いを理解させた。
決して品の良くない、がらっぱちな下町言葉。
最近、購入したという三味線を見せてくれた。
思えば触れたのは初めてかも知れない。
そして、拾って治して磨いた尺八も。
彼女はリードギターを担当する、バンドの一員であることは周知で。
先日には、私もライブハウスのイベントにお邪魔した。
音楽家であることだけが、好奇心旺盛にしているのでは無いと思った。
今度は、最近手に入れたと言う、お気に入りというドレスを取り出してきた。
この私にも、似合うかもと言う。
黒でシースルー系の重ね着する上下ドレスは、フェアリー感がある。
「アナタ、先に着て見せて、着方が分からないから」。
換わって私も、サイズが合わないと思いつつ、試着してみる。
目の前での、目隠し無しでの着替えは、お互いに羞恥心の無いところ。
赤ワインを二本空け。
オジサンはケイタイで、奥さんと「早く帰宅するように」と怒られ、何度も遣り取りしている。
このお酒、いつまでたってもキリが無いかも知れない。
私は率先するように、おいとまを告げ、お店の子と席を立った。
後を追うように、彼女は見送りで後について来てくれた。
玄関正面の道路の横断歩道を渡ったとき、彼女が差し出した一輪の花。
・・・
彼女が何を思い、なぜに一茎摘み取り、私にくれたのか。
たぶん咄嗟のことに違いない。
私も思いがけなく、その意図について、考えを巡らしていた。
「ありがとう」の意味だろう。
しかし本来、「こちらがありがとうなのに」。
クレマチスの花弁もフェアリーだ。