彼は、料理がとても上手な人でした。
幼い頃から、食べたいものがあれば自分で作る、ということを自然としていたようです。
もちろん、私の作る料理も
「おいしい、おいしい」と言って食べてくれました。
でも、彼が作ってくれる料理は、私の普段使う調味料に、
さらにいろんなものをプラスして仕上げる、そんなスタイルでした。
「それだけ調味料使ったら上手にできるよ〜」
なんて笑いながら言っていたけれど、
彼が作る パスタやオムライス、洋食の数々はとてもおしゃれで、
レストランの味みたいにおいしかった。
そして彼は、こうもよく言ってくれました。
「作る大変さを知ってるから、あなたが作ってくれる料理は、すごく嬉しいんだよ。」
だから、私が握るおにぎりや、煮物、味噌汁を
本当に嬉しそうに、美味しそうに食べてくれた。
その顔が、今でも目の前に浮かびます。
「あなたのおにぎりが一番おいしいよ。」
そんな声が、今も耳の奥で聞こえる気がします。
私も、彼の料理が本当に好きでした。
作ってくれるだけで最高なのに、
当時はそれが「ずっと続く」と信じて疑わなかったからこそ、
「片付けもしてよ」
「もう少し調味料減らしてみてよ」
なんて、余計なことも口にしてしまっていました。
——言わなきゃよかった、と今なら思います。
もう一度だけ食べられるなら、
彼のマンションで作ってくれた リゾット が食べたい。
その時初めて食べたリゾットは、
驚くほどおいしくて、忘れられない味になりました。
娘の友達が家に遊びに来た時、
ちょうど彼が居合わせて、パスタや焼き飯を作ってくれたこともありました。
若い子たちが、嬉しそうにペロリと食べて
「おいしい!」「すごい!」と笑っているのを、
彼は誇らしそうに、嬉しそうに見ていました。
あの光景も、
あの味も、
あの時間も、
全部、大切な宝物です。
宙の便 COCORO舎 記