以前、私がとある病院で当直をしていた時のこと。
病棟の回診の合間に当直室でくつろいでいたら、看護師さんがやって来ました。
入院患者様のことではなく、ご自身のことで診察をして欲しいと言われました。
私のそこでの業務内容は、基本的に入院患者さんと併設の老健施設の入所者さんの診察だったので、どんな緊急なことだろう?と思いました。
その看護師さんは、怯えた表情で、
「顔に虫の卵を産み付けられてしまって…」とポツリ。
私は、「えぇっ?!」と心の中で思いましたが、口には出さず。
一体、彼女に何が起こったのか、話を聞いてみますと…
前日に、ご家族で牧場に遊びに行ったそうなのですが、そこで顔のほっぺた付近に虫がとまったのだそうです。
すぐに手で振り払ったのだけれど、その時に虫に卵を産み付けられた…、と。
どんな虫だったかをお尋ねしたのですが、「それはわからない」、と。
お顔を見せていただくと、確かに一部分だけ少し赤くなっていました。
一般的な虫刺されのように、私には見えました。
「虫に刺されただけじゃないですか?」とお尋ねすると、「いえ。卵を産み付けられてしまったんです」と、悲壮感ただよう表情で答えました。
これが患者様だったら、「きっと虫に刺されただけだと思いますよー」とお答えしたと思うのですが、その看護師さんは私と同じくらいの年齢。
かなり前の話とは言え、当時、その看護師さんのキャリアは既に十分ありました。
看護師さんの方が早い年数で国家資格を取得できるので、私よりも医療職キャリアは上である可能性が高い。
そんな人が言うのだからと、つい「数秒の内に虫に卵を産み付けられるとかってあるの?」とか考えてしまう私。
えーー? でも、そんなこと、ある???
私は、「単なる虫刺されだと思うけれど、どうしても気になるなら、改めて皮膚科に受診してくださいね」とお伝えして、院内処方で虫刺されに効果がある軟膏を処方しました。
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数時間後、病棟回診の時に再び看護師さんに会ったので、お声がけしたのですが。
軟膏を薬剤師さんから出してもらったものの、まだ塗ってもおらず、でも卵を産み付けられたことが気になって仕事が手につかない、と言っていました。
「え?まだ塗ってないの? 早く塗っちゃえば良いのに!」と思ってしまいました。
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無事に夜が明け、朝の回診で病棟を回った時。
看護師さんに尋ねると、まだ軟膏を塗っていないと言われました…。
今にして思えば、卵の上に軟膏を塗りたくなかったのだろうか…。
言われなかったけど、私に卵を取って欲しかったのかな?
でも、卵なんて無かったよーー。
・・
1か月後、私は同じ病院で当直をしていて、また同じ看護師さんと会いました。
本人は私に相談したことをすっかり忘れていたみたいでした。
結局、皮膚科にも行かずに、自然と治ったそうです。
(つまり、卵なんて産み付けられていない)
・・・・・・・
これって、他のことにも言えると思うのですよ。
心配しなくてもいいことを心配して、めちゃくちゃ不安がるってこと。
しかも、端から見たら、全然理にかなっていないようなこと。
ぜーんぜん心配しなくていいことなのに、日常生活が手に付かないほど心配して恐怖に襲われるなんて、時間の使い方としてもったいない!
もっと楽しいことを考えましょ?!
な~んて。
自分にも絶対にあることなのですが、自戒の念を込めて
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ちなみに。
改めて調べてみても、たまたま顔に虫がとまって、その虫が卵を産み付けていくってことって、やっぱり無いようです。
ハエの幼虫が皮膚に寄生することはあるにはありますが、健康な人で正常な皮膚には起こらないようです。
(火垂るの墓のアニメ映画を見たことがある人なら、なんとなくどういう状況なら起こり得るのかがわかるかも?)
どうぞご安心を~。