私が大学病院を辞めて、仕事をセーブしながら不妊治療に専念していたときのこと。

 

私が所属していた大学病院から手紙が来ました。

 

私は所属していた大学病院と同じ大学を卒業しているのですが、同じ状況の夫宛には手紙はなく、「何だろう??」と思いながら封を開けてみると、

大学病院のとあるグループが文部科学省が所管する補助金事業に応募したところ、研究内容が補助金を受け取る対象になったそうで、その研究のためにアンケートに協力して欲しいというものでした。

 

アンケートの内容は、医者の中でも女性ならではの悩みについての研究に関するものでした。

 

どうやら、大学の女性の卒業生みんなに送られてきているようでした。

 

 

詳細は忘れてしまったのですが、確かこんな内容だったと思います。

「妊娠、出産に関する悩み」 

「子育てに関する悩み」

「親の介護の悩み」

「自分の病気に関する悩み」

「上記に付随する医者としてのキャリアアップができない悩み」

etc…

 

 

 

私は20代後半の時、夫の白血病の闘病生活を支えるために大学病院を休職し、復帰後も看病をしながら働いていたので、そのことと、

夫が病気をしたことで不妊治療をすることになり大学病院を辞めたこと(私に出世欲は皆無だけれど、最新の医療を学べる最前線で働くことを諦めたこと)、

仕事をセーブしていても、不妊治療と仕事の両立は難しいこと、

などに該当する項目を探しながら読んでいったのですが、最後まで私に関わる項目は出てきませんでした…

 

 

妊娠・出産・子育てに関する悩みは、残念ながら私には該当しなかったし。

当時、両親はありがたい事に元気だったし。

不妊治療は「治療」と呼ぶけれど、私には婦人科的な問題は特になかったし、他もいたって健康だったし。

 

私なりに女性ならではの悩みはあるのに、なんにも該当しない…

しかも、フリーで記入できる欄も無い…

 

アンケートを作成するにあたって、配偶者の大病や介護、不妊治療は想定範囲外だったようです。

 

 

どれにも当てはまらないので、「すべて該当なし」で提出することもできたのだけど。

でも、でも!

私は本当に、その時もその前も言葉に尽くしがたい悩みや辛さを抱えていたのです。

 

なので、「該当なし!私に女性としての悩みはありません!」とは回答したくなかったです。

 

 

・・・

 

ちなみに。

「配偶者の大病や介護」は女性だけじゃなくて男性でも同じなのでは?と言われそうですが。

 

少なくとも私の亡き夫は、もし私と立場が逆だったら…

私が寝込んでいても気まぐれに助けてくれることはあっても、「あなたなら自分で対処できるでしょ?」と言わんばかりに放ったらかされることが多くて、私が夫にしていたようなサポートをしてくれたとは到底思えません。

私のために仕事をセーブすることも無かったでしょう。

あとは毎晩 浴びるようにお酒を飲んで、妻が病気であるという現実から逃避していたと容易に想像がつきます。

(実際に私が体調を崩していたときがそうだったのですー。切ない…)

 

最近になり、医者のご主人様を亡くされた先輩女医さんにお話を伺ったら、もしご主人様と先輩の立場が逆だったら、先輩がしたようなサポートをご主人様から受けられたとは思えない、とおっしゃっていたので。

配偶者の大病や介護に関する悩みは、女性ならではの悩みと言いたい。

 

・・・

 

色々と考えた私は、結局アンケートを提出をしませんでした。

 

アンケートを集計する責任者は、私が学生時代から知っている優秀な女性の先輩で話をしたこともありましたが、わざわざ連絡を取って話すほど親しい間柄ではありませんでした。

 

母校に貢献はしたいけれど、静かな反抗。

 

 

ちなみに。

そのアンケートには、「誰が回答したかわからないようになっている」と書かれていたけれど、返信用封筒には通し番号が打ってあって、「これは、誰が書いたか知ろうと思えばわかるのでは!?」とつい思ってしまいました。

 

 

 

そこからしばらくして、アンケートのことを忘れていた頃、またお手紙が届きました。

封筒を見ると、アンケートに関することだと推測できました。

 

もしかしたら、私と同じように答えるのが難しい人から物言いがあって、アンケート内容を修正したのかなー?なんて思いながら開封してみると、

「アンケートに答えていないから記入して早く返送するように」と書いてありました。

 

「やっぱり、誰がどんな回答したのか、わかってるんじゃないのー?!」と思ってしまいました。

もう少し後だったら、どぶろっく風に歌ってたかも。

(きっと、個人を特定しないように工夫していたのだとは思うけれど)

 

 

催促が来ても、私は結局アンケートを返送しませんでした。

 

 

・・・

 

あれから軽く10年以上の月日が経ちました。

 

女医さんの数も相当増えたので、益々悩みは多岐に渡っているのではないかと思ってしまいます。