私のことを生まれた時から知っているF美さん。

私の物心がついた頃から、私のことを小バカにしてくる。

冗談で…、ではなく、本気で。

しかも、言葉が超絶にキツい。

子供の頃は口だけじゃなくて手も足も出されていて、年齢分の体格差もあるので本当にイヤで仕方がなかった。

最近はさすがに年を重ねて昔よりはだいぶ丸くなったけど。

 

 

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そんなF美さんは、自分の友人はいつもウソばかり言うと言っているのだけど、本当かな?と思うことがしばしば。

それってもしかして、お友だちじゃなくてF美さんの方が間違ってるんじゃないの?って。

 

 

めちゃくちゃ くだらないことなんだけど、たとえば。

 

私が「この前、ふじきなおひと(藤木直人)さんが出てた番組で~」と話すと、「あぁ、ふじきなおと のこと?」と話を遮って私の間違いを正そうとするのだけど、でも…F美さんの方が間違っている。

 

私が「イッコー(IKKO)さんがお勧めしてたコスメが~」と話すと、「イッコね!」と私をたしなめる。

「いやいや。イッコーさんは本名が かずゆきさんで、一幸と書くからイッコーなのだよ」と言いたいのを、もう面倒でグッとこらえた。

 

 

 

私はF美さんから言われると「私の方が間違ってるのかな?」と思って後で調べてみるんだけど、95%くらいの確率でF美さんの方が間違っている。

 

調べた後でF美さんに会った時に「この前こう言われたけど、かくかくしかじかで、私の方が合ってたよー」と言ってみたこともあるけど、「そんな細かいこと、いちいち気にするの?」と言われてしまった。

「細かいことをいちいち気にしているのは、そもそもF美さんだよね!? しかも、間違ってるのに!」と言いたいのをグッとこらえた。

 

その場でつい、F美さんの方が間違っていることを正してしまったこともあるのだけど、そういうときはF美さんは自分が間違っていることを絶対に認めないか、「冗談でそう言っただけじゃん。そんなことも通じないの?」と真偽のほどが本人にしかわからないことを言われました。

 

 

 

F美さんは一時が万事で、私が正しく言っていることを、F美さんの方が間違っているのに何故かわざわざ正そうとしてくるのでした。

 

 

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私の亡くなった夫が、もう本当にいよいよ危ない…となった頃。

 

たまたまF美さんの前で、私は夫に代わって書類の記入をしていました。

 

夫の名前を書いていたら「あん、間違えてるよ」とF美さんに言われました。

私は何を間違えているのかがわからず、「え?何を間違えてる?」と聞くと、夫の名前の漢字を間違えていると言われました。

 

F美さんはずっと、夫の名前の漢字を間違えて覚えていたようでした。

F美さんとの付き合いの長さから間違えて覚えていたことにビックリだったけど、でもこれはあるあるで、年賀状で夫の名前の漢字を間違えて書いている人は必ず数名いました。

みんな同じ間違え方で。

 

F美さんに「私が自分の夫の名前を間違えるわけないじゃん」と言うと、「あんが間違えてると思って教えてあげたんだよ」と重ねて言われました。

 

この返事に私はビックリしました。

もし、誰かの名前をその家族の人が書いていて、私の思っていた漢字と違う漢字だったとしたら。

私だったら、「えーー!?そっちの漢字でしたっけ? 私ったら長いお付き合いなのに間違って覚えていました。ごめんなさい!恥ずかしい!!」って言うと思います。

 

F美さんは自分が間違えて覚えていたことも、自分の方が間違えていたのに私に間違えていると言ったことも、な〜んにも気にしていないようでした。

 

 

 

そこから数年が経ち。

 

F美さんと会ったときにふと思い立ち、F美さんに「夫の名前の漢字間違ってるよ」の件を話してみました。

「私たち学生時代から付き合ってて、結婚生活も20年くらいあって、名前の漢字を間違えるなんてあり得ないのに指摘されてビックリしちゃった」って。

 

するとF美さんは、「あー。あの時は、あんが相当気が動転してると思ったんだよね-」と言いました。

 

私はなんか変だなーと思って、

「いや。だからさ。私が間違えるはずないじゃない?」と言うと、重ねて「だから、それだけ気が動転してると思ったんだよね」と言われました。

 

私は思わず「F美さんて、本当に自分が間違ってるって思わないんだね。私だったら『自分が間違って覚えてたんだ』って思うけど」と思ったことをそのまま口に出してしまいました。

 

するとF美さんは突然顔色が変わり、「何?あんはずっと私がそういう人間だと思ってたの?」と言い、明らかに動揺していました。

 

その反応に驚きつつ、私は「いやー。なんかすごいな-。と思って。 ただただ すごいなーって思って」と正直な気持ちを伝えると、F美さんは何か呟いてその場を離れて行きました。

 

 

 

それまで私は、F美さんは自分が間違えていることを人から指摘されたとき、プライドを傷つけられたと思って強気に振る舞ったりしているのかと思っていたのだけど。

 

指摘されても尚、自分が間違っていたと思うことは無いのだとわかってビックリしました。

 

自分の間違えを認めるとか認めないとか、もうその次元じゃ無くて、そもそも自分が間違えているという発想が無いんだなーって。

 

 

過去、私はF美さんの様々な不満のはけ口にされているとしか思えない扱いを受けていて、サンドバッグ状態になっていたんだけど。

私はどこかでF美さんが「あんには悪いことをした」と思うことがあるんじゃないかと思っていたんだけど、それは私の淡い期待であって、実はそんなこと無いと思っていた方がいいのかな、と思いました。

 

なんかもう、それまでとは違う意味での諦めの境地、諦観の境地にたどり着きました。

 

 

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その後もF美さんは相変わらず、自分が間違っていることでも鬼の首を取ったように主張してくるのだけど。

 

私は少し心のゆとりが持てるようになりましたハート