ネタバレあり
『ラストエンペラー』『火龍』を観た流れから、こちらの映画も再見することに。
この映画を観たのはかなり昔だし、最初から最後まできちんと観るのは今回が初めて。
もともとは『火焼圓明園』(93分)、『垂簾聴政』(115分)の前後編映画を編集して129分に短縮したものが日本で公開されたものらしい。DVDは 『火焼圓明園』『垂簾聴政』を第一部、第二部として、ノーカット完全版となっている。
劇場公開版をあまりちゃんと観ていないので、ノーカット完全版と言われても、どのシーンが増えたのかはよくわからない。
昔の映画とはいえとにかく画質が荒くて見づらい。デジタルリマスター版を出してほしい気分。
冒頭、『ラストエンペラー』『火龍』に続き、これで三度目の紫禁城映像を見ることとなった。
西太后は中国史の三大悪女のひとりであり(他二人は、漢の劉邦の妻・呂后と、唐の高宗の皇后・武后)、それ故に、公開当時は西太后の残虐な面が映画の売りになっていて、『アフリカ残酷物語・食人大統領アミン』のようにいわゆるモンド映画に近い扱いだった。
特に辛酉政変の粛正における残虐性と、咸豊帝の側妃である麗妃をダルマにしたというエピソードが大きくクローズアップされていた。
自分もその衝撃性ばかりが印象に残ってしまったが、改めて今回映画を観ると、実際は結構地味な内容というか、西太后の残虐性は物語の中でそこまで大きなウエイトは占めていない。
辛酉政変においては、wikiには「載垣と端華に自害を命じ、粛順を斬首し」とあるが、映画のように濡れた布を重ね窒息させて殺すようなことが実際あったかは不明。ちょっと残虐性を盛っているのか?
麗妃をダルマにしたエピソードも、実際は呂后が夫の妾である戚夫人に行ったエピソードであり、ネットで調べた範囲だと、手足を切断し,眼をえぐり取り,耳を削ぎ、厠中に捨てたとある。どうやら西太后はこの映画において他の三大悪女の非道まで背負わされてしまったようだ。実際西太后と麗妃は良好な関係だったそうで、豊かな余生を送ったそうなので、映画は残虐性を過剰に盛りすぎている感はある。しかし、このダルマエピソードがあったから、日本でもこの映画が話題になったという気もする。
確かに西太后は、龍=皇帝の下に描かれる鳳凰=皇妃を逆転したいという野心を持った女性だが、若い頃の西太后は美しい人だったようだ。映画でも可愛い顔をしている。その西太后が、歌で咸豊帝の関心を引こうとするあたりは微笑ましいエピソード。このあたりのサクセスストーリーはちょっと少女漫画のような雰囲気もある。
その後政治に口を出すなどの野心的面も描かれているが、第一部ではまだおとなしい感じ。
映画では西太后は清朝王家の愛新覚羅家に滅ぼされた葉赫那拉家の出身という設定になっているが、このあたりも諸説あるようで、西太后の出生に関しては不明とされているようだ。
第一部は西太后の印象は薄く、むしろ、イギリスら列強諸国の侵攻と、もとのタイトルにある圓明園の炎上の方が印象深い。
年代的に、日本にペリーが来航した時代と近く、中国も西洋の侵攻に頭を痛めていた時代だったのだなーと、中国歴史に疎い自分にとってひとつ歴史の流れを知ることとなった。
第2次アヘン戦争(アロー戦争)に関しては歴史の教科書で耳にはするが、映像として観るのは新鮮だった。英仏軍と中国軍がこんな感じで戦っていたのだなーという興味を覚える。
圓明園焼失に関しては本当に悔しかったのだなーと言うくらい、その悲劇性がひたすら強調されていた。紫禁城同様今も残っていたら、さぞ素晴らしい観光名所になっていたことだろう。現在でも廃墟が残されており2008年から一部の復元事業が行われているらしい。また、1999年にはテーマパークとして円明園を再現した円明新園なるものがあるらしい。
第二部では咸豊帝が亡くなるまでのごたごたが長く、西太后も東太后も重臣たちにないがしろにされ、むしろちょっとかわいそうな感じさえ受ける。
とはいえ、西太后がクーデターに転じるのも、なんだか凄惨で、すっきりもしない。
物語としては西太后の半生を描いたに過ぎないので、「ここで終わり?」ってくらい物足りなさもある。というか、こっからが西太后の独壇場となるのでは?っていう一歩手前で終わった感じ。
実際『続西太后』も作られているが、『続西太后』も西太后が亡くなるまでは描いていない。そこは『ラストエンペラー』とつなげて観るのが正解なのか。
ということで、西太后は清を滅ぼした女性とされているが、いまいち具体的に何がどうしてそうなったのかは、この映画からではまだわからない。