2023年日本公開。
『ダリオ・アルジェントのドラキュラ』以来ダリオ・アルジェント10年ぶりの新作。
ジャッロ映画という原点回帰で多少期待はあったが、やはり昔の冴えはなかった。
でもやっすいCGを使った『ダリオ・アルジェントのドラキュラ』よりはましかな。
ネタバレ
皆既日食からはじまる物語。この皆既日食は何を表現しているのか。
主人公の失明する未来、災いの予兆ということだけなのか。
それにしてはつかみがやけに仰々しい。
コールガールばかり狙う謎の殺人鬼。
なんかその設定が既視感満載で古くさささえ覚える。
そもそもこの脚本、60年代くらいにアルジェントが書いた脚本をアーシアが映画化することを薦めたらしいので、どうも一昔前の趣がある。
お蔵入りしただけあって、その後に作られた『四匹の蠅』や『歓びの毒牙』や『サスペリア2』よりも出来が弱い。
主人公のディアナ演じるイレニア・パストレッリはスタイル抜群だが、なんとなく品がない。
ジェシカ・ハーパーやジェニファー・コネリーを起用してた時のようなセンスはもはやなしか。
ディアナのお客のひとりが盲導犬のブリーダーをやっていて、ディアナが臭いと言ったことで機嫌を損ねて帰る場面が最初にある。
まさかこの男が犯人だったりしてねーなんて思ったら、まんまその男が犯人というひねりのなさ。
しかも物語の半ばで早々に犯人の顔が出てくるので、犯人にまつわるミステリーとかサスペンスは皆無。
また、この犯人がディアナ以外に何人か娼婦を殺しているのだが、何故娼婦殺しをしているのかも不明。毎度娼婦たちに臭いと嘲られていたとか、過去に臭いと言われてトラウマがあったとか、特にそういう背景がある訳でもない。
とにかく何故か執拗にディアナを狙う動機が不十分な感じ。
また、アルジェント恒例の意味不明シーンも健在。
例えば水蛇に襲われるシーンなどは、ディアナがやたら悲鳴をあげて、その悲鳴で犯人がディアナの居場所に気が付くのかと思いきや、そういう訳でもなく、何故か犯人はディアナの追跡をやめて、あとから白いバンで登場する。
単に水蛇に襲われるという悪趣味シーンを描きたかっただけなのだろう。
また、少年とはぐれたディアナが迷い込んだダムの管理棟のシーンも描写が長い割には何もなく、唐突に少年と再会したり、犯人が襲ってきたりと、ひっぱる割にはそれだけかい!と言う感じがする。
ゴアシーンは健在で最初のコールガールが殺されるシーンはやたらにグロい。
また、最後に犯人が盲導犬に襲われるシーンはまんま『サスペリア』のシーンの焼き直しで、おえっとくる。しかも『サスペリア』よりもしつこい。監督、犬が喉笛食うシーン大好きか!
主人公が盲目という設定の時点でなんとなく『サスペリア』の盲目のピアニストを連想はしてたけど、まんま、あのシーンを繰り返すとはねー。これはファンサービスなのか?(ちなみにディアナが隠れる少年の家のライティングが赤、青など原色っぽいのも『サスペリア』を彷彿とさせる)
こういうサスペンスの部分より病的なまでな残虐シーンに力が入ってしまうのはいかにもアルジェントだが、にしても作品全体のバランスとしてはここに力注ぎ過ぎという印象。
とにかく過去作のシーンの焼き直しと、ひねりのないサスペンスで、かつての冴えを期待するとがっかりだが、そこそこのサスペンスとしてはまあまあ楽しめるというか、主人公が盲目になるとか(盲目の人間が味わう恐怖と言う点では『暗くなるまで待って』とか『見えない恐怖』など、サスペンス映画になりやすい題材)、盲目の彼女が徐々に立ち直っていく描写などは割と丁寧に描かれている。特にアーシア・アルジェント演じる歩行訓練士との関わりなどは、割とちゃんとしている。しかし、アーシア・アルジェント、役柄のせいもあるけど、オーラのないおばさんになったなーという感じ。
また、ディアナと中国人少年の交流なんかも悪くはないし、アルジェント作品としてはちょっと新鮮な感じもあった。
ただ、共同脚本らしいので、このあたりは、別の脚本家によって書かれた部分かもしれないなどと勘ぐってしまう。
曲の感じも悪くなくて、それなりにはらはら感を味わえる。
バランスの悪いところとか、ヘンテコ部分もあわせて、やっぱりアルジェントは死ぬまでアルジェントなんだなーという気持ちがした。