監督マルジャン・サトラピはフランスの漫画家として活動されている女性のようで、映画の絵作りもちょっとポップというか、こだわりを感じる。
コメディ調に作られているが、笑えないというか、どっちかと言うと観ていてつらい、苦しい気持ちになる。
お話自体はちょっとレトロ感あり。この種のお話は昔のB級ホラー映画にいっぱいあったよねーというか。
主演はライアン・レイノルズ。彼は『悪魔の棲む家』でも狂ったお父さんを演じていたけど、こういうちょっとプッツン系が意外にはまる。
そういえば、脱ぎ好きライちゃんがこの映画では一回も脱がなかったような…。ああ、パンツ姿にはなっていたな…。
『ピッチ・パーフェクト』のアナ・ケンドリックも出演。彼女の役どころが一番胸が痛くて、辛かった。
後味のいい話とは言えないが、最後にきていきなりインド映画のようなフィナーレが待ち受けているので、無理矢理明るく終わった感じ。
いや、でも、そんなことくらいじゃこのもやもやした気分は全然払拭出来ないぞ。
ネタばれ
母息子そろって総合失調症なのか、主人公は幻聴が聞こえるようだ。
幻聴が犬や猫の口を借りてしゃべるあたりは、ちょいとファンタジックでかわいい絵面なのだが、主人公が恋した女性を殺して、その生首を冷蔵庫で保管するあたりから、かわいいファンタジーどころではなくなる。
首がしゃべる描写はユーモラスではあるが、やっぱり主人公の異常性が怖く感じる。
薬を飲んだ途端に、これまでポップにみえた室内が、死体解体場としての陰惨さをあらわにし、これは狂気に逃避せずにはいられないと思わせる説得力がある。死体解体シーンも遺体を細かく刻んでタッパーに保管するなど妙に生々しくて気分悪い。
ライアン・レイノルズ演じる主人公ジェリーは多少変な感じはあるが、一見まともそうに見えるところも怖い。
ライアンはそのあたりの危なっかしさが絶妙というか。
アナ・ケンドリック演じる経理のリサも、最初からジェリーにアプローチをかけていて、この物語をリサの視点に立って考えると非常にしんどいことになる。
離婚して、新しい恋をはじめ、人生やり直せると思ったであろうリサが、その恋した相手が恐ろしい殺人鬼と知ってしまった時のショックはどれほどのものだろう。挙げ句殺されてしまうのだから、彼女の人生って…なんてことを身につまされる勢いで感じ入ってしまったので、もうしんどい。とてもしんどい。首を損傷し身動き出来なくなったリサが流す涙もとても辛い。
最初に殺されたフィオナにしても、魅力的な女性だったのにジェリーに好かれてしまったのが運の尽きというか、異性との関わりって気をつけなくちゃなーなんてことを思ったね。とにかく被害者側の視点で観てしまうとこんな洒落にならないお話はないのですよ。
精神科医の先生が生き残ったのはせめてもの救い。
ジェリーはジェリーである意味かわいそうな背景があるのだけど、でも、実際のところとても厄介な存在であることも確か。
なんやかんやあっさりジェリーは亡くなって、救われたんだか、救われないんだかわからん気分。