ネタばれあり
地味な女子高生が、仮想世界で歌姫となって人気ものになるという、現実逃避の王道みたいな物語。
で、その仮想世界で乱暴者の竜と出会い、まんま『美女と野獣』くりそつの展開となる。途中までは仮想現実版『美女と野獣』なのか?とさえ思った。
が、途中から様相が変わる。というか、竜の正体が斜め上というか、「え? そういう話し?」と戸惑う展開。
まあこれまでも細田守監督の作品はストーリー的には首をひねる部分がちょいちょいあるんで、最初からそこはあまり期待してないのだけど。
そもそも地味な女子高生はやたらネットに詳しい親友や、人気者の幼なじみや女子からも好意をもたれ、彼女を見守るおばちゃんたちとなんだかんだ恵まれている。
とにかく夢見るティーンエイジャーの少女漫画みたいなお話なのだが、そこに虐待という重たい問題をぶっ込んでくることに驚きと共に、その虐待の問題がなんとも安易に扱われている印象だ。
川で溺れた子供を助ける為に身を犠牲にした母親と、見知らぬ竜を助ける為に自らの正体を明かすというリスクを背負う主人公がリンクし、彼女の成長を描いているのだろうが、その為にまわりが随分と都合良く動いてくれる。
クライマックスは主人公が虐待を受けている兄弟を助けに行く所なのだが、虐待している危険な父親がいるのに、何故誰も付き添わず、彼女ひとりに行かせるのか? しかも彼らの家を見つける手がかりも薄い。で、たまたまの偶然で兄弟を見つけ、なんだか主人公の気迫だけで父親を追い払い、なんとなくめでたしめでたし感があるけど、この竜と主人公の関係性もいまいちふわっとしたままで、いや、そこまでのリスクを犯して何故主人公が乱暴な竜を守ろうとしたのか、竜は何故彼女に惹かれたのか、どうもいまいちよくわからない。
まあ、竜は彼女の歌声に救いを見いだしたのかもしれないし、彼女も不良が捨て猫を可愛がる姿を見てきゅんとなる現象に近いものを感じたのかもしれないけど、非常に恋愛っぽい雰囲気を醸し出しておきながら、そういう関係性もなかったようで、何故男女という設定にしたのかも中途半端な印象となった。
さらにアンベイルして正体がばれた主人公が、その後なんのリスクも負わずに済んだとも思いにくいのだが…。
そういう意味では現実逃避の妄想、きれい事の域を出ない甘さを感じるが、ストーリーはさておきとにかくビジュアルが綺麗だった。
やはり風景画とか、自然描写などがとても綺麗だし、バーチャル表現も新鮮とまではいかないが、なかなか見せる。
風景が四万十川あたりの高知っぽいなーと思って観てたら、やっぱり高知が舞台だった。あのあたりの風景描写も力が入っている。
しかし、登場人物は特に土佐弁で話す訳でもなく、風景以外に高知っぽさはあまり感じられない。
やたらカツオのたたきの話しが出来てきたので、そのあたりが高知っぽさを出してはいたのかなー。もうちょっと高知の文化的な部分も描いて欲しいような。まるで、仮想現実とのギャップとして、あるいは絵的に映えるという理由で高知を舞台にしただけのようにみえる。
主人公の父親の声が、声優っぽくなく、それでいてジプリの映画みたいに素人を起用して感じる違和感もなく、むしろ自然な雰囲気で良いなーと思ったら役所広司だったのねー。出番は少ないけど印象深いというかさすがです。