タイトルからして、なかなか香ばしいキワモノ映画臭がただよってますが…。
正直、映画そのものよりも、この映画の製作背景が面白い。
まず、この映画の企画、脚本、監督およびヒトラー役を演じたのがセバスチャン・スタインという日本在住のドイツ人。
共同監督を行ったのが、セバスチャン・スタインが自らFBでコンタクトしたガーナのジョージ・ルーカス、特殊撮影を得意とするニンジャマン。
第二次世界大戦を生き延びたヒトラーと東條英機がガーナに渡ってガーナ人をアーリアガーナ人に改造してガーナ支配を臨むという奇想天外と言うレベルを凌駕したわけわからんストーリーで、その東條英機を演じた秋元義人は俳優ではなく、セバスチャンの知り合いの秋本サービス社というなんでも屋。なんでも屋だから俳優も引き受け、セバスチャンと一緒にガーナに渡る。
この秋本サービス社のHPを見たが、普通に清掃から引っ越し、庭の手入れ、修理交換、遺品整理、外注駆除などあらゆることを請け負ってくれるようだ。話し相手や悩み相談、ゲームの相手もしてくれるみたいだし、なんだか頼んでみたくなってきたなー。
実際の東條は69歳で没しているので、この映画の撮影当時40歳くらいだった秋元氏は随分若い東條だ。
ネタばれあり
映画はいかにも低予算のしょぼい映画に思われたが、意外にガーナ人の俳優の身体能力が高く、アクションシーンは見られるレベルになっている。一応ガーナでは有名なアクション俳優で、カンフーなども見よう見まねらしいが、それっぽく演じているのはさすが。主役のガーナ人俳優も割とイケメンだし、アクションに関してはバカにしきれないものはある。
ただ、全体にゆるい。なんとも言えないゆるさ。まあこの種の映画につきまとうポンコツ感は否めない。特に特殊撮影や生首などのチープさはへぼを通り越したほほえましさ。
ヘルマン・ゲーリングがアフリカ人だったり、あえてそのポンコツ感をいろいろ狙ってる感もある。
ストーリーは影蛇拳の師匠を殺された若者が、酔拳やら、やたら笑う謎の師匠(演じたヌルディーン・アバスは亡くなったそうで、映画最後に冥福を祈るという文字が)について技を極め、トーナメントを勝ち抜き、ヒトラーをやっつけるという割と王道なもの。設定は奇抜だが、お話し自体は特に特筆すべきものはない。
しかし、はっきり言ってこの映画の見所は本編より長いこの映画のドキュメンタリーだろう。
これはもうメイキングの面白さというか、むしろこっちを映画にした方が面白いいんじゃなかという気がしてくる。なんていうか、ティム・バートン監督の『エド・ウッド』的って言うのかな。
何しろ素人同然のセバスチャン・スタインと秋元義人を見かねたニンジャマンが彼らをガーナ人の空手家に修行に行かせたりするのだ。日本人なのになぜガーナ人に空手を習う? など不思議感満載。
ガーナでは映画は一週間ほどで撮るそうだが、この映画の撮影に関しては1ヶ月かかったそうで、それはガーナレベルではすごいことらしい。
にしても、セバスチャン・スタインは初めて書いた脚本を低予算で映画が作れそうなガーナで製作することにして監督とコンタクトをとり、スポンサーを見つけるなど(この映画のスポンサーであるアドンコという名のお酒推しが半端ない)、その行動力には驚かされる。もともと映像のお仕事をしていて、ドキュメンタリーなどを撮ったりもしているらしい。日本にはワーキングホリデーで3ヶ月の予定で来ていたが16年以上住み着いてしまったとか。俳優的な仕事としては『奇跡体験!アンビリバボー』『ザ!世界仰天ニュース』などの再現VTRに外国人役などで出演しているらしい。アフリカをセレクトしたのは、アフリカ人の女性がタイプだったからだとか…。ヒトラーのものまねは昔から得意だったようで、2000年に『DJアドルフ・ヒトラー』っていうミュージックビデオを自主制作していたらしい。
また、いくらなんでも屋とはいえ、こんな奇想につきあう秋元義人氏もただ者ではない。俳優の経験はないであろうに、なかなかそれっぽく演じていたものね。映画の終わりではヒトラーが死んだのに対して意外に良い奴になって生き残ったりもする。
結構このセバスチャンと秋本氏のコンビも微笑ましい。
影蛇拳の師匠の葬儀は結構本格的に撮られたようで、その棺を準備する交渉なども面白い。
ガーナでは弔われる人間の職業によって、拳銃の形をしてたり、車の形をしてたり、独創的な棺の形をしている。なかなか高価なもので、そのレンタル料も安くはない。
さらりと流れる場面だが、この映画の中では割とお金のかかったシーンだったんだなーなんて思う。
ブードゥの本物の巫女に役を依頼しようとしたら、やたらインチキ臭くて、このあたりも面白かった。
結局、ブードゥの巫女を専門に演じる俳優に役をふることになるんだけど、このアフリカならではのエピソードも楽しい。
とにかく現場はアドンコ飲んで酔っ払いながらの撮影だったようで、その緩さもまた面白い。
勿論、ガーナ人が時間を守らないとか、ブードゥの儀式をやっていると思われて警察が来たり、俳優とカメラマンが喧嘩したり、プロデューサーの車が爆発したりとといろいろトラブルもあったようだけど、そんなこともひっくるめた無茶苦茶感がいい味出ている。
この日独ガーナの不思議な交流も興味深い。
しかも、気がつけば全国で劇場公開されるまでになっているし、DVDの吹き替えは水島裕などが担当している(吹き替えも字幕も何故か関西弁)。
ひょうたんからコマみたいな映画だけど、こんな時代だからこそ夢があっていいよねー。
果たしてヒトラーがロボットとなって蘇るという続編実現になるかな。