ネタバレあり

 

アリ・アスター監督の『ヘレディタリー/継承』が結構メンタルにきたので、びびってなかなか観られなかった『ミッドサマー』

プライムで無料になったので、ついに観てみた!

 

異質なコミュニティに訪れた若者が体験する恐怖というプロット自体は目新しいものではなく、ストーリーは思ったよりひねりもなく展開される。

よく比較に『ウィッカーマン』が出てくるが、まあ、展開としてはほぼあんな感じ。

これはちょっと拍子抜けという感じも。この監督のことだからもっと何かガツンとくるものを期待してしまった。

 

勿論、この監督は、損失の痛みを描くのが上手い監督なので、今回ものっけから主人公が味わう悲劇が辛かったが、でも『ヘレディタリー/継承』よりは少しましだったかな。

 

ストーリーに新鮮味はなかったが、映像は美しく、見せ方は良かった。

異国の文化に触れるわくわく感と、カルト宗教のような胡散臭さが醸し出す不穏さで、どこかざわざわと胸騒ぎを覚える感じもよかったし、途中の儀式の衝撃性も際立っている。

まあ、こんなやばい儀式を見せられたら自分だったらさっさと逃げ出す所だが、案外この若者たちはしぶとくこのコミュニティに留まるんだなー。

とにかくカルト集団の描き方にはディテールもよく、とてもリアリティがあった。

 

途中若者たちが次々姿を消すあたりはあっさりしてたし、主人公の彼氏が体験する恐怖もある意味怖いような、ある意味滑稽なような、ヘンテコ感がある。

この彼氏がいい奴なんだか、そうでもないのか微妙な人物だった。友人の研究テーマをちゃっかり横から自分のものにする様は嫌な奴だなーと思ったけど、彼女に関しては彼なりに誠意を尽くしているようにも見える。それでもいまいち好感は持てなかった。

なんで、彼が生け贄となるあたりは、あまり同情出来ない感覚もあって、恐怖感は薄かった。

ただ、この監督、やっぱやべー奴だなーという感じはした。

 

女性は共感の生き物と申しますが、このカルト集団のコミュニティはひたすら感情の共有しまくりで、最後に至っては、主人公もこの滑稽なまでの共有空間に半ばばかばかしさを覚えたかのように笑い出す始末。

いや、一種の狂気という荒療治の中で、不思議な癒やしを得たというか、怖いお話のはずが、妙な清々しささえ覚えてしまうエンディングだ。果たして清々しい気持ちになっていいのかどうかは疑問でもあるのだが。

 

『ヘレディタリー/継承』も狂気に落ちたことで、苦しい現実から開放されたようにも見える物語だったが(というよりもっと深い暗黒に落ちたようにも見える)、不可避の運命の前に人は結局狂気に屈する以外にないということなのかもしれない。

『ヘレディタリー/継承』は最後まで苦しい気持ちが残ったが、『ミッドサマー』は意外にも後味は悪くなかった。それはやはりこれまで彼女が抱いてきた恐れや不安や悲しみを突き抜けたかのように見えるからだ。ただ、それが本当の意味でハッピーエンドと言えるのかどうかはわからない。

 

※この映画にはビョルン・アンドレセンが出演していたのか。なんとなく目を引く美しい老人だとは思ったが、老いても尚、アンドレセンは不思議と美しい。