1976年に公開された『犬神家の一族』を30年経て同監督が再びリメイク。

主演の石坂浩二をはじめ、加藤武大滝秀治と前作と同じキャストを使い、脚本、演出、カメラワークはほぼ前作通り。いわば『サイコ』ヒッチコック版とガス・ヴァン・サント版を見比べる感覚というか、いや、ミヒャエル・ハネケ監督の『ファニーゲーム』『ファニーゲーム U.S.A.』を見比べるような感覚というか(こっちの方が近いか)、演劇だったら同じ演目で違う俳優が演じるのを観るような感覚。

ああ、他のキャストが演じるとこういう感じになるのねーという好奇心とでもいいましょうか。

しかし、30年たって石坂浩二が同じ役を演じるとは思わなかった。金田一耕助は原作でも年齢不詳らしいので、思ったよりはこれもこれでありかなーという感じ。

基本、ラストなどの若干の変更はあっても、ストーリーはまったく同じなんで、1976年版を観ている感覚と殆ど変わらない。

ただ、自分はやっぱりオリジナルキャストの方が好きだし、1976年版にただようおどろおどろしい雰囲気と、いい意味での古くささが好きだったので、今後また『犬神家の一族』を観る機会があるとしたら、やっぱりオリジナル版を観たいかなーと思う。

 

奥菜恵と並ぶ松嶋菜々子を観て、この人ってこんなに身長高かったんだと改めて知った感じ。173cmって、私も長身の方だが私以上に背が高い人とは思わなかった。珠世の役はむしろ深田恭子の方がはまりそうな気がしなくもない。

 

横溝正史の作品って、ミステリーや推理小説と言うより怪談に近いというか、江戸川乱歩の世界に近い感じがする。もっと言うと和製ダリオ・アルジェントっぽいというか。

日本の因習とか、近代化以前の旧態依然とした世界観とか、ノスタルジーを感じさせる風景とか、ほどよい陰気さとか、そういうところが魅力であって、ミステリーの仕掛け自体は勿論突っ込み所はあるし、遺体の処理なども不必要にまで派手派手しい。

でも、そんなこけおどしともとれるようなホラーめいた演出が、横溝作品の魅力のひとつだと思う。

それに、この作品の最大の魅力はやっぱり佐清、青沼静馬のインパクト。この存在あっての犬神家の一族という感じで、殺しの道具立ても面白いし、一族の背景などもよく作られていて、とある一族の遺産相続をめぐる殺人事件と言う題材ながら、当時の世相なども伺えるので興味深い。

ある意味市川崑の1976年の映画は横溝作品のひとつの完成形だったように思う。『犬神家の一族』は他にも映像化された作品があるが、やっぱり1976年が一番面白い気がするんだなー。

今回、リメイクを観て改めてそう思った次第です。