ネタバレあり

 

大岡昇平のフィリピン戦争体験を元にした小説を原作に市川崑監督による映画化。

知ってる俳優が殆どいない中、船越英二の名には聞き覚えが。ああ、船越英一郎のお父さんか。

目が大きくて印象的な顔立ち。

 

太平洋戦争末期のフィリピン戦線、レイテ島における日本兵士の極限状態を描いた作品で、肺病を煩い、厄介者扱いされる主人公が混沌とした戦場を迷走する。

主人公田村は原作ではクリスチャンと言うことらしい。映画ではそのあたりはうっすらと示唆するレベル。

とにかく、人肉を喰う事に対する抵抗感とか、彼の中にあるモラル感みたいなものは宗教に起因しているようだ。

割とこの主人公が掴みづらいというか、現地の言葉や英語などを解するインテリな面もあるようだが、つねにぼやっとした雰囲気がある。このぼやっとしたところがちょっとイライラしたりもする。

現地の人間と出会って、その女性がやたら叫ぶ事に動揺したのか、唐突に撃ち殺したり、その事実を隠したり。

手榴弾をうっかり他人に渡してしまうような間抜けさを発揮したり。

で、最後は人肉を喰う仲間を撃ち殺したりもする。いや、確かにカニバリズムはタブーではあるが、この極限状態でそのモラル感を発揮するというのも宗教というバックグラウンドがあると思えばいくらか納得出来るというか。

主人公が歯がかけた為に人肉が喰えなかったというのは映画独自の変更らしいが、やはり主人公が人肉を喰うと言うのはショッキング過ぎるのかな。

人肉を喰って口中を血で濡らした兵士はもはやゾンビのような怪物感があった。

 

途中兵士が落ちていた靴を交換していく描写がちょっと面白かった。

最終的には完全に靴底が抜けた靴が残され、主人公は裸足になることを選択する。

 

モノクロ映画で、割と状況も淡々としているので、何度か眠くなってしまった。

ただ、ラストが非常によく、この地獄のような状況下で、危険とわかっていながらも普通の暮らしをしている人々に会いたいと願う主人公の姿が胸に刺さる。野火というタイトルの意味もここにきて深い意味を覚えるし、この締めが非常に良かったので、なるほど名作だねーという気持ちになった。

 

2015年の塚本晋也版も気になるね。