これで、『CURE』『カリスマ』『回路』『ドッペルゲンガー』と役所広司主演の黒沢清監督の映画はコンプリートかな。
『ニンゲン合格』が残ってるけど、あれは主演ではないし、TSUTAYAにないので観られないかも。
で、この『叫』だが、なんとも微妙な映画であった。
『ドッペルゲンガー』が楽しかったので期待したんだが、ホラーとしてもミステリーとしても微妙…。
若干これまでの映画の焼き直し感、劣化版というイメージもあるが、それは言い過ぎか。
お笑いとしてはところどころ面白いシーンがあったけど、あれは笑わせることを意図しているのだろうか?
インパクトはあったけどねー。
とにもかくにも最後に行くに従って観念的になるあたり、清さんらしい映画ではあります。
勿論、役所さんはいい演技してましたよ。清さんは役所さんの演技力にいろいろ救われてるなーと思います。
それにしても、清さんは役所さんに正気と狂気で揺れ動く危うい役ばかりふるなー。その設定お気に入りか!
ネタばれ
最初の殺人から役所さんっぽい犯人だったので、役所さんが殺人犯って話しかと思ったが、そうではなかった。
ボタンやコードなど、いかにも役所さんが犯人っぽいのだけど、それはミスリード。
まあ、刑事が「自分が無意識に殺人を行っているかも?」と疑念を抱く設定自体特に目新しさを感じない。
役所さんが死体が浸かった水溜まりの水を躊躇なくなめて海水だと判断するところはなんだかすごかった。自分だったら絶対やだよ。
事件に伴って、美麗な幽霊が役所さんの前に現れる。
このあたりのホラー演出もまったく怖くない。何しろ演じるのが葉月里緒奈だし、ただただ綺麗なだけ。
勿論、綺麗で無表情で瞬きなしに迫ってくる様は多少は怖い演出だと思うのだけど、やっぱり言うほど怖くない。
何しろ、紙切れみたいに空中を浮遊したり、伊原剛志の上から突然落下して、彼を連れ去る場面などが殆どギャグに見えてしまうのが、いいのか悪いのか。面白いと言えば面白いのだけど。
で、伊原剛志が殺されるのもなんだか唐突過ぎてよくわからんし。
15年前に役所さんが、フェリーから療養所の窓辺にたつ葉月里緒奈と一瞬目があっただけで祟られると言うあたりはいかにもな怪談で、本来は怖くなる要素だとは思うのだけど、何故15年後にそのたたりが爆発してるのかはよくわからん。
窓辺に立つ葉月里緒奈は既にその時幽霊であったのか、何なのか…。
そして、葉月里緒奈の骨を発見した役所さんはなんとなく許されたとあるのだが、やっぱり彼の廻りに幽霊がつきまとっているような感じだったし、ラストの小西真奈美の叫びも意味不明。
このラストには別バージョンがあって、殺人犯として出頭しようとする役所を留めるために小西真奈美が叫ぶみたいなラストがあったそうな。
まあ、この、清さんの、「意味がわからないでしょ? 考察しがいがあるでしょ?」って姿勢が、彼の映画を好きになれない理由なんだけどね。でも世の清さんファンがその訳わからん感じが好きなのかもしれない。
役所さんはまたえらく若い女性が恋人って設定だなーなんてことも軽く気になる。恋人が若いということにも意味があるのか? 単に小西真奈美を起用したかっただけなのか?
そして、何故、役所さんが小西真奈美を殺したのかもよくわからない。たたりの影響かもしれないが、他の殺人者たちは、「手に負えない」「自分を見てくれない」などの理由が一応あるように思えるが、役所さんの理由は最後までよくわからなかった。
小西真奈美との関係は終始ふわふやしていて、役所さんが彼女を見ていないのか、彼女が役所さんを見ていないのかがよくわからんし、そもそも役所さんの脳内にある恋人の死後の姿なので、実際の恋人が何を考えていたのかはこのドラマからはまったくわからない。
脳内の恋人だからか、殺した相手にやたら寛容だったりもする。それが殺人犯の都合のいいイメージにも見えて気持ち悪い。
とにかく療養所で虐待を受けて死んだ赤い服の女に祟られた者は自分の身近な人間を殺してしまうようで、助けて欲しかったのに、誰も自分の存在に気づいてくれなかったという辛さと言う部分はよい着眼点とは思うけど、赤い服の女が味わった孤独や辛さ、怖さがいまいち描き切れてない気もする。
で、その恨みが「みんな死ね」という極端なものになって、最後は世界が荒廃したような雰囲気になってるんだけど、人一人のたたりが強すぎる…。まあ、『リング』とか『呪怨』を考えてもホラーのたたりって言うのはそんなもんなんだろうけど。
自分の叫びが届かない。誰かの叫びを受け止められない。そんな部分をもっと掘り下げて描いたら面白かったのに、いまいち中途半端な気分。
ということで、やっぱりホラーとしてもミステリーとしても目新しさもなく、ストーリーが目新しくなくても演出面の力量で見せることも出来るだろうけど、そこまでのパワーもなく、人間の姿をそこまで掘り下げている感じでもなく、やっぱり微妙だなーという感想で終わる。