さて、原田眞人監督の『関ヶ原』を観た流れから、同じく司馬遼太郎の小説を原作とし、巷で評判のいい、1981年東京放送創立30周年記念番組として3夜連続放映されたTBSテレビドラマ版の方を観た。映画ではないけどちょいとここで紹介。

 

とにかくテレビドラマ版はとても面白かった!

5時間に及ぶドラマだから、尺の問題もあるとして、原田眞人監督版より圧倒的にわかりやすい。

キャストもなんだかしっくり来る感じ。勿論台詞も聞き取りやすい。

欠点を言うなら、曲がいまいちな感じで、時々場面に不釣り合いと感じるようなBGMに違和感を覚えた。

でもこれまでふわっとしか把握していなかった関ヶ原の合戦をこのドラマでかなりしっかり把握出来た感じ。

司馬遼太郎によると、明治にドイツの軍事専門家が関ヶ原の東西両軍の布陣図を見て即座に西軍の勝ちと言ったにも関わらず、実際は東軍勝利となったのは、関ヶ原の勝敗が戦略ではなく政略が決め手だったからと言うのは面白い。あの合戦が家康のペイジェントであり宣伝媒体だったと言う見方もなるほどって感じ。

(ただし、今知られている布陣図も後世によって作られたという話しもあったり、関ヶ原も調べれば調べるほどに沼が深く、これがまんま歴史的事実という訳でもないので、あくまで物語として楽しむに留めるべきではあるようだ)

 

それにしても、やっぱり高橋幸治大谷吉継格好よかった!

ぶっちゃけ、このドラマ、大谷吉継高橋幸治が演じていると知って、絶対観なくちゃって思ったよ。

衣装デザインとか、ビジュアル的な格好よさは確かに原田眞人監督版は優れているんだけど、三成との友情の描き方とか、逸話とされる茶会のエピソードの再現など、心情的にぐっとくるものがあるのはやっぱこっちなんだなー。

どことなく無機質に淡々と三成を諭す感じも良かった。特に「前前から言おうと思ってたことだがお主ほど頭の高い男はない。そのためにつまらない憎しみや恨みをこうている」みたいな説教をするところが好き。

小早川秀秋が寝返る可能性を感じて、圧倒的に少ない兵数にも関わらず、小早川の陣の下に自分の陣をかまえるあたりもぐっときちゃう。映画でもドラマでも大谷はあっさりやられた感があるけど、実際はかなり健闘して、小早川勢を押し戻したりもしたなんて話しもあるようだ。他の隊の寝返りもあって、結局敗退してしまうのだが、でも、最初から西軍に勝ち目がないことがわかっていても、友情の為に病に蝕まれた自分の死に場所として三成に力を貸す様がたまらん。

最後に自分は目が見えぬ故、名乗ってから行けと家臣に言って、皆が名乗って去って行く場面もよかった。

そして映画でもドラマでも大谷が切腹する場面は胸が締め付けられる。

やっぱ好きだわ、大谷吉継!

と、まあ、すっかり大谷吉継に夢中な私。大谷吉継の実像はわからんが、後世に作られた大谷吉継のイメージはほんま格好いい。ちなみに白い頭巾を被ってるイメージも後世に作られたっぽい。この白い頭巾が自分的にはかなりツボなんだなー。あと輿に乗って戦場で指揮を取る姿もやっぱりツボ。完全にビジュアルにやられてるな。

ただ、冷静に考えると、友情なんてものの為に負け戦に参戦させられる家臣はたまったもんじゃないよねーという気もする。

実際は大谷が西軍に参戦した理由は別にあったのではないかと思うが、大谷に関して一次史料が少ないようで、その動機に関しては明確にはわからないようだ。ただ諸説ある中でも、友情に起因すると言う物語よりは、政局に起因するという説が現実的な感じはするかな。

また、大谷はある程度勝算を見込んでの参戦であったとか、西軍に囲まれた領地にあって参戦せざるを得ない状況にあったとか、いろいろな考察があり、実際、負けるとわかって参戦するというのは少々愚かしくも感じる部分なのだが、そうした事情があったとするならばちょっと納得な気もする。

寡兵でありながら戦場での活躍も武勇としてたたえられているが、実際はやる気のない態度で三成を苛立たせたなんて記録もあるようで、調べるほどに伝説化された英雄像と、現実とのギャップを覚える。

ちなみに大谷は業病であったが、記録には何の病かは不明。ハンセン氏病とする説が高いが、梅毒説もあり、本当のところはわからない。はっきりわかっていることは、視力の衰えと、戦場では輿に乗らなければならないほど足が弱っていたことだけで、これではハンセン氏病とも断定出来ない感じだ。

このように今に語り継がれる大谷のイメージと実在の大谷とはかなりかけ離れている可能性はある。ある意味虚像と言ってもいいかもしれない。しかしこれはこれで格好いい虚像として楽しみたいかな。

 

小早川秀秋の寝返りの経緯もこのドラマが一番納得いったと言うか、現実的な感じがする。

映画だとなんだかただの情緒不安定な男みたいに見える。

でも、小早川が裏切った経緯もいろいろあるようで、このドラマが正解と言う訳でもないようだ。

特に三成秀明に関白の職を約束するとか、徳川小早川陣への発砲などは一次資料には記録されていないとか。

そもそも小早川は途中で裏切った訳ではなく最初から西軍を攻撃していたなんて話しもあるようで、実際はこんなドラマティックなものではないのかもしれない。

 

西軍では島津義弘も印象深い。薩摩の言葉もいい感じ。

三成のそれこそ「頭が高い」態度が災いして、結局関ヶ原では最後まで動かず、敵中突破する様は、なんだか結局何もしてない感あるんだけど、格好良い後味を残した。

島津に参戦を拒まれてあっけにとられる三成がなんだかちょっと面白かった。

 

そういえば山内一豊が土佐藩主になる経緯がなかなか酷かった。他人のアイディアを横取りするちゃっかり者と言うか。

のちの山内容堂小山ゆう『おーい!龍馬』のせいであまりいいイメージないけど、これが土佐の受難のはじまりかと思うと、山内家のイメージはだだ下がるね。

 

松坂慶子演じる初芽三成のロマンスは映画同様自分的にはいらんかなーと思うが、なんとこの女性実在の人物だったのね。物語上創作された女性だと思ってた。

 

大河ドラマの『徳川家康』三成が一方的に悪役っぽかったけど、このドラマでは家康三成の立ち位置や心情がわかりやすく、バランスのいい描き方だったように思う。

ただ義を重んじる正義の人という美化されたイメージじゃなくて、三成の長所と短所もよく描いていたと思う。

家康もまた、悪役と言うイメージではなく、彼なりの理を感じるものがあった。大河ドラマの『徳川家康』を観ているから、ここに至る家康の背景もわかるし、これまでの経緯を考えると家康がそこまで秀吉に義理を通す謂われはないようにも思えるので、秀吉の死後に虎視眈々と天下取りに動くのもわからんでもないしね。

だから、両者が雌雄を決する関ヶ原もまた、互いの思惑や、駆け引きなど、見応えあるものだった。

 

石田三成は割とイケメンが演じることが多い気がするけど、実際イケメンだったんだろうか?

肖像画は特にイケメンな感じでもないけど。

ちなみに三成の頭蓋骨を元に復顔した結果、頭は前後に出た木槌頭で、顔は細長く、鼻は筋が通って高いが、極端な出っ歯だったらしい。現代の感覚だとイケメンとは言いがたいかな?

加藤剛はイケメン過ぎてちょっと贔屓目に見ちゃうよね。

ちなみに、加藤剛は美男で清潔感のある素敵な男性だと思うけど、自分のタイプとはちょっと違う。でも母がファンだったのでなんとなく昔から気になる存在なんだな。あと松本人志が男前の代名詞によく加藤剛をあげてて、まっちゃんの好みと母の好みが同じという思わぬ共通点ににやりとする。

 

義はね、ある程度人間社会に平安と秩序をもたらす上では必要かなーと思うのだが、人はその義をも踏み間違えないとは限らないので難しいもんだね。それが本当に義なのか、己の欲望を満たさんとする為に義を利用しているのかも見分けが難しいし。

このドラマのように本当に三成は義だけを重んじていたのだろうか。太閤なきあと自分が実権を握りたいという欲望がなかったのかと問われるとわからんしね。

 

原田眞人監督の『関ヶ原』は、このTVドラマを踏まえた上で観るとアートとしてのひとつの表現かなーという感覚を受ける。

そういう意味ではテレビドラマと映画では表現したいものがはなから違うんだなーと思う。どちらが良いかは個人の好き好きもあるかもだけど、私はビジュアルとしては映画版、物語としてはテレビ版と言う感じかな。