終戦記念を前にしてプライムで観賞。

 

いやー、ワタクシ、終戦に関しては、広島長崎に原爆が落とされ、ソ連参戦も重なり、これはもう戦争を続けることは無理だと、あっさり降伏が決定されたと思ってたんですよね。

宮城事件のことも知らなかった有様で、まさか玉音放送が流れるまで、こんな熱い一日が繰り広げられていたとは、この映画を観るまでまったく知らなかったですよ。

今更ながら先の大戦を終わらせることの困難さを思い知りました。

 

映画自体もモノクロ映画であることと、終戦からまだ22年という空気の生々しさで、ドキュメンタリーのようなリアルさを感じます。


 

ネタばれ

 

当時の内閣総理大臣鈴木首相は戦争終結に際して確固たる決意のある方だったようだし、戦争継続派の前では戦争を続ける意思があるようにもふるまいつつ、天皇や仲間内では和平しかないと決めていたようで、映画の中でも阿南陸軍大臣を前にきっぱり戦争を継続しない意思を告げている。このきっぱりした姿はちょっと胸が空く思いだった。演じる笠智衆も格好よかった。

鈴木首相は終戦を決めたが為に命の危険さえあったが、この人が一貫して終戦を貫いたことが終戦を可能としたことと感じられる。

鈴木首相は肝臓癌による死の直前「永遠の平和、永遠の平和」と二度はっきりと繰り返したという。こういう人が当時の首相であったことで、日本は救われたのだと改めて思った。

 

そして印象深いのはやはり三船敏郎演じる阿南陸軍大臣。

本土決戦に持ち込んでも戦争を続けたいという陸軍側の意思と、戦争を終結させたいという天皇、首相の意思の板挟みにあいながら、両者の折り合いをつけるべく、自らが切腹と言う形で事を収める姿が強烈だ。

戦争を継続すべきという軍人の心情もわかりすぎるほどわかるだけに、そして、戦争を終わらせるべきだということも理解出来るだけに、こうでもしなければ陸軍の感情に収まりが付かないことを覚悟していたのだろうが、それにしても何故よりにもよって介錯もつけず、自ら割腹のあとに首の頸動脈を切るなどという辛いことをやり遂げたのだろう。考えただけで恐ろしい。

調べてみると阿南は明け方の5時半に割腹し、自ら首の頸動脈を切るも、死に至ったのは7時10分だったという。別の者が死に至っていない意識不明の阿南を見て、介錯したという話しもあるが、いずれにせよ頸動脈を切れなかった為に絶命まで時間がかかったという。本人に意識はなかったかもしれないが、実にきつい話しではないか。

このあたりの切腹シーンは実に生々しく、見ていて本当に辛いシーンだった。

私は切腹という痛々しい行為で責任をとるという文化を正直理解することは出来ないのだが、こうした行為がなんらかの人々の心を動かす場合もあるのは事実のようだ。

実際阿南陸軍大臣の自決により、戦争継続の主張が止んでいったと言うし、鈴木首相の夫人も、阿南陸軍大臣の存在無くして首相が大任を果たせなかったと振り返り、首相自身も阿南を誠忠の人と評している。

このように阿南陸軍大臣の事を知るほどに彼の身を挺した犠牲を痛まずにはいられない。

 

そして、この映画では姿が映し出されることのなかった昭和天皇。

私にとって昭和天皇は、太平洋戦争において、その名の下に戦争はじまり、敗戦後も象徴としての立場に残りつつ、戦争責任を問われ続けた人という印象であったが、実際のところ私は戦争当時天皇は時の内閣に利用されているだけで実権は殆ど無かったのではないかと思っていた。

ポツダム宣言受託にあたり、和平を望む者と、戦争継続を望む者が拮抗する中で二度に渡り終結を望むことを貫いたという意味では、確たる意思を感じるし、涙ながらに自分はどうなってもいい、必要なら国民にも軍隊にも自ら説得すると言う言葉を言われたことに、胸が熱くなった。本土決戦で最後の1人まで戦うことを望まれず、国民が生き残ることを願ってくれる人で良かったと、失礼ながらただ周囲の思惑に翻弄されているだけの人のように思っていたのが、ちゃんと賢明な判断をもたれた方なんだと、今更ながら昭和天皇の見方が変わったように思われる。

玉音放送も無感情で棒読みに感じられ、ただ言わされているだけだと思ったが、そこに至る天皇の行動、言葉などを顧みると、決してそうではなかったのだと思われ、これまで戦争を扱ったドラマや映画で何度も耳にした玉音放送もいまいち意味不明であったが、現代語に訳された言葉で改めて内容を知ると、心に沁みるものがあった。

 

クーデター未遂事件となる宮城事件もショッキングである。

特に森師団長と白石中佐の殺害シーンなどはかなりショッキングというか、拳銃よりも刀の方がビジュアル的に怖すぎるなーという気持ちがする。

彼らが天皇の意思を無視してでも、自分たちが官軍となるべく、その権威を手に入れようとするあたりなどは背筋が寒くなる。

 

また、横浜警備隊の佐々木武雄大尉が学生等を扇動する姿も当時の軍人の怖さがにじみ出ていて恐ろしいと思ったのだが、演じていたのは天本英世だったのだな。さすが死神博士、迫力あるわー。

 

これまで戦争終結は国民側からの視点で見ることが多かったのだが、終結にあたる上層部の側を知れて、どの場においてもいろいろな葛藤や戦いがあるのだなーとしみじみ感じ入った。

戦争が終結して75年。まだまだ知らないこと、知るべきことはたくさんある。