古き骸を捨て、蛇はここに蘇るべし、エロイム・エッサイム、エロイム・エッサイム!
我は求め訴えたり! エロイム・エッサイム、エロイム・エッサイム!
さあ!バランガバランガ呪文を唱えよう!
おっと、途中から『悪魔くん』になっちまった。
でも、当時、この呪文を唱えるCMはインパクトありましたねー。
『里見八犬伝』の流れで深作欣二繋がりもあり久しぶりに観たくなりました。
角川映画の中でもこれは結構お気に入り。定期的に観たくなる中毒性あります。やっぱり独特の毒々しさはありますけどね。
ちなみに、私は歴女じゃないので、これまではなんとなく天草四郎とか、宮本武蔵とか知ってる範囲の人物が転生して戦うってあたりを面白がっていたんですが、今回はもうちょっとつっこんで観られたように思います。
例えば細川ガラシャとか、実はよく知らなかったんですが、ちゃんと調べると、明智光秀の娘だったんだーなんて、歴史に詳しい人からみたら「今更?」なことを今更知ったりする有様で、さらりと調べただけでも非常に数奇な人生だったんだなーと思います。いくつか大河ドラマにも登場してたいたようなんですが、なんだかあまり記憶に残っていませんでした。
あと、私、去年はじめて江戸城跡に行ったんですが、江戸城天守が早い段階で焼失し、その後再建されなかったというのをその時はじめて知ったんですね。てっきり明治維新の時に解体されたんだと思っていたものですから。これも知ってる人からみたら「今更?」な話ですが。
で、その江戸城天守が焼失したのが1657年の明暦の大火と呼ばれる江戸三大大火のひとつだったんですね。
こうした史実をうまく絡めるあたりが伝奇ものの面白さですね。
明暦の大火も調べるとなかなか悲惨な大火事だったようで、この映画をきっかけにいろいろ調べてみるのもなかなか楽しいです。
この物語の原作者である山田風太郎は『伊賀忍法帳』でも、東大寺が燃えるシーンがあって、「勝手に東大寺燃やしちゃ駄目じゃん」と当時は思ったんですが、実際東大寺も何度か焼失していたと後で知って納得したものでした。
先に見た『帝都物語』も、関東大震災や実在の人物を絡めた映画として共通しておりますが、加藤がひとり目立ちすぎなのに対して、沢田研二の天草四郎はカリスマ性もあり目立った存在ではありますが、決して彼ひとりが目立ちすぎの映画じゃないんですよね。
そこはなんといっても、我らが千葉ちゃんが演じる柳生十兵衛ががっつり存在感を持って対抗しているからこその見応えというんですかね。悪も善も拮抗してこそバランスのとれた映画と言えましょう。やっぱり『帝都物語』のようにあの嶋田久作に対しての石田純一では駄目駄目ですよ(と、また石田純一をディスってしまいました。いや別に石田純一に恨みはありませんよ。ほんと)。
あと、対抗勢力が異性になると、決まって恋慕の情が絡んでくるので硬派な緊張感がそがれてしまいます。『帝都物語』の嶋田久作と原田美枝子もそうだし『スターウォーズEP7〜9』のカイロ・レンとレイそうでしょう。このあたりは好みにもよりますが、私は割としらけるタイプです。なんで、『魔界転生』はちゃんと男対男の戦いって感じでいいですね。
柳生十兵衛の眼帯姿もいかしておりますが、実際のところ柳生十兵衛は隻眼だっと言う説と、そうではなかったという説があるようで。映画的には隻眼の方が絵になります。
個人的には自分はジュリーがそれほど好きじゃなかったので、この配役には不満もあったんですが、でも、やっぱり顔立ちきれいだしスター性はあるし、否定は出来ないかなーという気持ちです。
それにしても島原の乱で殺されたキリシタンの生首が累々と並ぶオープニングはなかなか気味が悪いし、途中で農民が処刑されるあたりも惨いというか、日本って昔はこういう世界だったんだなーと改めて思いますね。まあ、日本に限らず、人間は本来こうした残虐性を持った生き物なんですね。
江戸時代って子供の頃は遠い昔のことのように思えましたが、日本が近代化してからせいぜい150年くらいしかたってないのだと思うと、そう昔のことでもないように思えます。と言うか、明治維新から現代までのこの150年はまさに激動の時代だったんだなーと思いますね。
ネタばれ
とりあえず転生組のキャストも見逃せません。
細川ガラシャ演じる佳那晃子の妖艶な美しさ。クライマックスで「オーホホホホホ」と狂気の笑いを放つあたりはまるで楳図かずおの漫画から抜け出たような演技。もともと原作にはいない人物で深作欣二が映画ように加えたらしいですね。男臭い物語に華を添えております。転生組の紅一点と言うこともあって、若干お色気担当みたいな扱いでもありますが、そういえば、農民側の女性が突然胸をあらわにして仲間を扇動するという謎のお色気シーンもありました。実際のところその描写いる?って気分ですが。
緒形拳の宮本武蔵は意外でしたね。私の宮本武蔵のイメージとはちょっと違うかな。巌流島の決闘を再現したかのような、波打ち際の十兵衛との決戦は見所です。
ちなみに、お通は吉川英治の小説で創作された人物なので、この映画に出てくるお通の姪などは、吉川英治の小説のコラボということになるのでしょうか?
そして宝蔵院胤舜が実は女好きで、女を殺す妄想を抱いている快楽殺人犯的な人物像になっているのは、史実的にもそういう話があったのかと調べてしまいましたが、わからなかったですね。井上雄彦の『バカボンド』の胤舜とは随分イメージ違います。
ちなみに演じていたのは室田日出男だったんですね。
転生組では唯一架空の人物である伊賀の霧丸ですが、渋い俳優揃いの中で、唯一若手の真田広之がすがすがしいです。話題となったジュリーとのキスシーンですが、改めて観ると、なんであそこで天草四郎が霧丸に接吻したのかわかりません。天草四郎はバイセクシャルなのか、それともおそらく童貞であろう霧丸に女を襲うようたきつけるために、ある意味欲情を煽るために接吻をしたのか、個人的には後者のイメージを感じます。
まあ、男性の場合、マウンティングをする意味でも強姦したりしますから、そういう意味合いもあるんでしょうかねー。しきりに霧丸を自分のものだと主張してましたし。
まあ、そこはあまり深掘りせんでもいいところですが。
個人的にはちょい役でしたが成田三樹夫の姿が冒頭で見られたのは嬉しかったです。
とにかく、この映画の見所はやはりCGではなくセットを実際に燃やして撮影されたという、江戸城焼失の最中に繰り広げられる、若山富三郎と千葉真一の一騎打ちでしょう。
当代随一の名手と評された若山富三郎の殺陣と、沢田研二が火傷までしたと言われる実際の炎との迫力で、この映画の中でも屈指の名シーンとなっています。
そして「なさけなや、親父どの」と炎の中から登場する十兵衛のかっこいいこと! この台詞無性に好きなんですよね。ここは何度も見たいシーンだったりします。
この時、千葉真一の体に書かれた文字は梵字という魔除け文字らしいのですが、そういう説明は映画の中では一切なしですね。なんとなく耳なし方一みたいなイメージで説明がなくてもわからんでもないんですが。
実際、このふたりの殺陣の前では、その後の沢田研二と千葉真一の戦いはおまけみたいなものでした。しかも沢田が首を切られてからの合成映像感はかなりがっかり指数が高く、そこまでは格好よかっただけに惜しい気持ちにさせられます。
でも、炎の中に立ち尽くす十兵衛のシルエットで静止するエンディングは最高に格好いいです。
(なにげにそのまま焼死しかねない勢いですが…)
さて、「また戻ってくるぞ」と言い捨てて去って行った天草四郎ですが、その後彼が再び活躍する続編ってあるんでしょうかね?
※ちなみに、言うまでもないかもしれませんが、明暦の大火で徳川家綱は焼死しておりません。
追記
ふと気になって調べたら『魔界転生』は原作では家光の時代の話しなのだな。その方が島原の乱と時代が一致するし納得出来る。おそらく深作欣二の映画ではクライマックスに明暦の大火を持ってきたかったから、家綱の時代にしたのだろう。
だが、そこで問題なのは、柳生十兵衛は1650年に没していて、明暦の大火は1657年、つまり十兵衛はとっくに死んでいるのに、何故か明暦の大火に存在するという矛盾が生じている。
まあ、明暦の大火で家綱が死ぬくらいだから、このあたりは完全に史実無視したフィクションなんだろうけど。