まさかの画面酔い!
いやー、下手なPOVみたいな画面揺れがないので、まさか酔うとは思わず油断した。気がついたらかなり気分悪くなってて、ほとんど画面ちらみ状態でしか見られなかった。

過去の自分のレビューを読んだら『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』でも画面酔いしてたみたいなので、このワンカット風映画がもしかして自分には合わないのかもしれない。

宣伝では全編ワンカット的に言ってたが、実際はいくつかの長回しを編集したもの。明らかに2度途切れるシーンもある。

それでも十分見応えある長回しなんだけど、ちょっとTPSを見てるような気分になってくる。

 

第一次世界大戦と言うと『西部戦線異状なし』『戦火の馬』の印象が強く、とにかく塹壕戦、接近戦というイメージ。

第二次世界大戦とはまた違った赴きというか、これはこれで行き詰まる怖さがある。

ワンカット風の映像が戦場の臨場感をよく表現していた。

 

今回は伝令の視点から見た西部戦線の眺めであり、監督の祖父が伝令であった経験を元にしているようだが、史実というよりは、『戦火の馬』のような、限られた時間で伝令を伝えるというシチュエーションは臨場感のある戦場を見せる上でのフィクション的要素が強いようだ。

 

所々印象的なシーンがあり、もう一度見たいなーと思わせる場面もあるのだが、何しろ画面酔いが辛いのでもう一度見ることは叶わないかもしれない。

戦場で垣間見られる自然の美しさ、雄大さも素晴らしく『シン・レッド・ライン』のような詩情もある。それでいて『シン・レッド・ライン』のような退屈さはない。

 

惜しくもアカデミー賞作品賞では『パラサイト 半地下の家族』に破れたものの、これはこれで見応えある映画。

ただ、これまでの戦争映画に比べてすごく新鮮かと言われるとそうでもないなという気はする。西部戦線の戦場を駆け抜けると言うシチュエーションは既に『戦火の馬』で描いているし、今の時代にこの映画を描く意味を考えると少し弱い気もする。

 

 

ネタばれ

主たる登場人物はふたりの伝令であるが、その内のブレイクの方が最後まで生き残ると思いきや、あっさりドイツ兵に刺し殺されたのは意外だった。

もうひとり、生き埋めになったりするウィリアムの方がすぐ死にそうな雰囲気だったし、意味深に有刺鉄線で手を怪我するシーンがあるので、絶対何か感染症になるのかと思ったらそこは伏線じゃなかった。

このウィリアムがどっかで見たことある俳優と思ったら『サンシャイン/歌声が響く街』に出演していたジョージ・マッケイだった。どことなく眠そうな目でヌボーとしたイメージの人ね。

 

ネズミが爆弾を爆発させるシーンと、狙撃兵との打ち合いでウィリアムが気絶するシーンで暗転が入るので、明らかにワンカット映画ではない。ただ、もし完全にワンカットで撮るとしたら目的地に着くまで5、6時間かかると言っていたので映画も当然それだけの時間がかかることになるし、それは最初から無茶というもの。

 

戦闘機が墜落して、ドイツ人を救出し、ブレイクが死ぬまでの流れは印象的。

飛行機が伝令ふたりの目の前までくるシーンは迫力あったし、ブレイクの死に様は見ていてきつかった。みるみる内に顔色が白くなっていくのもリアルだし、彼の苦しさや不安もリアルに伝わってくる。ブレイク(ディーン=チャールズ・チャップマン)は時々少しディカプリオに見える時がある。結構かわいい顔をしてたので、ここで死亡は残念だった。

正直最初はずっとこのふたりの伝令だけで話しがすすんでいくのがしんどくて、「この映画面白くなるのかな」と思っていたが、ここから一気に引きつけられた。

しかし『プライベートライアン』もそうだけど、ドイツ兵を助けるとろくなことがないというか、敵は助けないに限るという教訓に思えちゃうね。

 

目的地に着くまで他に登場人物が出てこないのかと思ったらここで違う部隊と合流してちょっとほっとする。

マーク・スミス演じる大尉が格好いい。

 

しかし、目の前で友人が死に、そこから先は孤独に使命を果たさなければならないと言うのに、ウィリアム勇敢だなーというか、部隊と別れた後に橋の欄干を渡ったり、早速狙撃兵と打ち合う羽目になってるし、よくこんな恐ろしいことが出来るなと。私はまっぴらごめんだけど、男性は戦争を厭わないと言う遺伝子が刻み込まれているのかなーとつい考えてしまった。じゃなければ、人類の歴史の中でこんな怖いことを何度もやらないのではないかと。

 

狙撃兵と打ち合って気絶から目覚めたウィリアムが照明弾の光りの中で眺める風景が印象的。

その後、燃えさかる炎のシーンも美しかった。

その炎の中から敵兵が突進してくるシーンはめっちゃ怖いけど。

 

フランス人女性と出会うことでまたほっと一息。友達が死に、狙撃兵との命がけの殺し合いからの、炎からの敵と緊張の連続なのに、この女性に食べ物を譲ったり、ウィリアムはほんといいやつ。だけどあのミルク腐ってなかったのかなー。大丈夫なのかなーと心配になってしまった。

 

フランス人女性と別れた後はまたまた敵と殺し合い。敵の首を絞めている向こう側には別のドイツ兵がいるという緊張感。

さらに川に落ちて死にかける。

そりゃー泣くよ。泣きたくなるよ。ウィリアム、よく頑張った。

 

目的の森につき、お歌のシーンでちょっと癒やし。

 

やっとデヴォンシャー連隊に合流し、マッケンジー大佐(ベネディクト・カンバーバッチ)の元へ行くまでの塹壕の道のり。ずらりと並ぶ兵士の光景もインパクトある。

そして、塹壕から飛び出して兵士が出撃する波を駆け抜けるシーンは素晴らしかった。ここは画面酔いせずに見ることが出来てよかった。相当リハーサルしたんだろうな。

 

マッケンジー大佐と対面してからは割とあっさり物語が終了した感じで、いろいろ苦労もあったし、印象的な場面もあるけど映画全体はさらっとした印象となった。

ウィリアムの寝顔ではじまり、寝顔で終わる。まるでループするように彼が目覚める時またあらたな任務がまっている。そして人間の戦いの歴史は何度も繰り返される。なんとも浮き世は美しくも厳しき世界よのー。

 

エンドロールになって、はじめてコリン・ファースも出演してたことに気がついた。どこに出ていたのかまったく記憶になかったが、最初に命令を出した将軍がそうだったようだ。あのあたりは結構画面酔いしてたからなー。