韓国映画初となるパルム・ドールの受賞と言うことで、話題の作品を観ました。
滅多に韓国映画を映画館では観ないので、これが劇場で観た韓国映画としては『新感染 ファイナル・エクスプレス』に続く2作目になります。
ポン・ジュノ監督作品を観るのは『グエムル-漢江の怪物-』『スノーピアス』に続く3作目。『グエムル-漢江の怪物-』はあまり面白くなかったのですが、『スノーピアス』はまあまあ面白かったです。
今作は、タイトルからロバート・ロドリゲス監督の『パラサイト』を想像しちゃうのですが、まったく関係ありません。ポスターの雰囲気からハネケ監督の『ファニーゲーム』みたいな話しを想像していたのですが、あそこまで不条理感満載でも、殺伐ともしていません。
この作品をひもとくキーワードとして格差社会という言葉をちょいちょい見かけますが、単純に言えば富裕層と貧困層の対比とそこに混在する問題点を描いた作品と言えましょう。
富裕層にしても貧困層にしても、今の韓国の現状を垣間見られて興味深かったです。
ある意味資本主義社会のひずみ、問題点が噴出している今の世の中において、マッチングした映画という感じですね。
生物界は人間社会に限らず、弱肉強食のピラミッドがあり、資本主義というのはその最たるシステムだと思うので、どうしても下層民を産み出してしまう。しかし、それでもこのシステムを信望するのは、遺伝子レベルに組み込まれたどうしようもない生物のサガなのかなーなんて思ってしまうのですが、人はこのサガを乗り越えられることが出来るんでしょうかね?
ネタばれ
それにしても貧困層と言ってもスマホはデフォルトなんだなーっと。どんな状況にあっても皆スマホは必ず持っているというか、何を置いてもそれなくして生活は成り立たない所まで来ているのかという、そういう時代なんだなーという感慨深いものを感じました。電波こそ盗んではいましたが、スマホの契約費用とかはどうなってるんでしょうね。
半地下という住居で、便所コオロギや、立ちションや、殺虫剤散布まで行われる劣悪環境で家族全員で行う内職でなんとか生きているぎりぎりの生活。殺虫剤がまかれる中でのピザの箱作りは、その殺虫剤が箱についていると思うと後で問題が起こらないのかと心配になります。というか、こういう現状の中でピザの箱が作られているのかと思うと韓国ではピザは頼めないなーと思いますね。
そんな貧困状態であっても、彼らはものすごい悲壮感がある訳でもなく、むしろそれなりに家族力を合わせて生きているように見えます。また、そんな状況にあっても長男は大学4浪までしているし、妹も美大を受験しているので、もし彼らが大学や美大に受かった場合、その学費をこの家庭が支払えるのだろうかという疑問も覚えます。
4浪や美大受験に落ちているとはいえ、彼らは金持ち家族をあっというまに取り込むだけの手腕やスキルはある訳で、長男は家庭教師の生徒にあっと言う間に惚れられ、その生徒が嫉妬するくらい妹は美人だし、頭もいい。どうやってこれまで続かなかったと言われる金持ちのぼうやの美術教師のポジションで、ぼうやをなつかせたかは謎。
父親にしても、金持ちの運転手となるべく努力を重ね、ちゃんと気に入られているし、母親も金持ちを満足させるだけの家政婦スキルを持っている。そういう意味ではこの家族、結構なポテンシャルがあるなーと感じます。
この勢いでこの金持ちの家を乗っ取り、最終的には立場逆転とまで行くのかと思えばそうはなりません。母親が家政婦として雇われるとき、いろいろ家の権利書などを提出させたのはそうなる伏線と思ったのですがね。
この家族のピークは家族全員金持ちの家にパラサイトすることに成功し、金持ち一家がキャンプで出かけている間にその家で好き勝手に飲み食いする所で止まり、そこからはあっと言うまに転落です。
そもそも、留学中の長男の友人が戻ってきたら彼らの嘘は露見するだろうから、この生活はもって1年だったのかもしれませんが。
ちなみに長男に家庭教師の身代わりを頼んだ友人は彼を信頼してのことでしたが、友人が家庭教師の生徒にプロポーズすると聞いた上で即行彼女に惚れちゃうというのもまったく仁義がないというか、友人はそもそも長男をなめていたのかもしれませんが、仮にも良い仕事を紹介してくれた友人を何の良心の呵責もなくあっさり裏切るあたりは怖いなーと思います。
留守中とはいえ、食い散らかして、酒を飲みまくるというのはなかなか大胆というか、いくら鈍感金持ちとはいえ、彼らの前でこっそり夫婦いちゃついたり、なかなかふてぶてしい神経してます。私だったら突然帰ってくる可能性を考えて、あそこまで無防備にはなれないですね。
彼らが罠におとしめて解雇させた家政婦が尋ねて来た時も、リスクを犯して彼女を家に入れてしまうのはびっくりです。
そこから彼ら以上に追い詰められ、この家にパラサイトする人間がいることが露見する訳ですが、このあたりのドタバタはちょっと間抜けな域でしたね。最終的に彼らがおとしめた人間によって彼らの所行がバレるという展開はセオリーだとは思うのですが、そこから貧困同士の足の引っ張り合いとなって結局双方自滅の道をたどっていく。
案の定途中で戻ってきた金持ち一家に見つからないように隠れる貧乏一家という展開ははらはらするし、面白いとは思うのだけど、でも、ちょっと長いというか、そこまでひっぱる部分かなーという感じも致します。
地下に住む家政婦夫婦の夫などは、どん底にあってもはや家主をあがめる域にまでいってしまい、自動照明と思いきや、全部彼が手動で照明をつけていたというのも驚きです。
下層の暮らしが雨の中でずぶ濡れになっている一方、富裕層は子供のバースデーパーティを計画する。この落差がすごい。
災害でボランティアが用意した服なのでしょうか、妹がパーティに参加出来るだけの可愛いワンピースがよくありましたね。
それにしてもこの物語のクライマックスで、父親が金持ちの主人を殺す場面はどうしても唐突感を覚えてしまいましたね。臭いがトリガーとなっているようですが、パーティの最中、踏み込みすぎた発言によって主従関係を明確化されたことと、体に染みついた臭いによって自分の立ち位置を心底思い知り、絶対に踏み越えられない壁があることを痛感した時に、彼の中でその現実に対する怒りを覚えたと解釈出来るのだけど、殺しにまで発展するかなーっと。これは彼個人のテロ、あるいは革命にも近い意識だったのかもしれないけど、やっぱりそこに至る心情がぴんとこなくて話しが急に飛躍している感じは受けます。
父親が主人を殺していまうところに意外性はあるかもしれないし、そのことによって彼が地下に潜伏するというオチに繋がるのだけど、いまいち釈然とはしません。ただ、隠していた地下の男の出現と、目の前で娘が刺され、妻が切られ、かなり動揺してたことを考えれば、日頃抑圧されたものが噴出するってこともあるのかなーとなんとなく納得させてみたり。
この父親が途中長々と無計画であれと語る場面などは、きっと彼の人生は計画をたててもうまくいかないことばかりで、もう無計画で流れにまかせるしかないという境地に達してしまったのでしょうが、逆にこのノープランという考え方が彼をここまでおとしめている原因ではないのかなーという気も致します。少なくとも金持ちの家にパラサイトしたところまでは計画的だったし、彼らが堅実に務めればそれなりに這い上がるチャンスでもあったのですから。まあ、誰かをおとしめた因果からは逃れられないかもしれませんがね。
また、この父親は、自分の代わりに失業した運転手の心配をしたり、頭を打った家政婦の生死を調べて彼女が生きていることに感謝したり、最後は彼女をちゃんと弔ったりと、それなりの人間性を持った人物なので、あそこで金持ちを急に殺すというのはやっぱり釈然としないのです。いや、人間ってつまらないことが引き金になって人を殺すことはあるけど、そういう行動に納得出来る説得力を映画からは感じなかったんですね。あとに彼を殺したことを後悔してたのでやっぱりかなり衝動的なものだったのでしょうが。それだけ貧困層の抑圧は重いということでしょうかね。
この父親はこの家の奥さんにちょっと惹かれていたようでしたが、その描き方も中途半端な感じでした。
ところで、金持ちのぼうやが地下の男の「助けて」というモールス信号をキャッチするのは何の意味があるんでしょうね。後に息子が父親のモールス信号をキャッチする伏線なのかもしれませんが、それは途中で台詞で説明されているし、わざわざこのエピソードを入れる意味が謎でした。そのモールス信号をキャッチしたことで地下の男の存在が金持ちにばれるとか、そういう伏線と思ったんですけどね。
このぼうやはつくづく誕生日にトラウマを植え付けられる運命のようでかわいそうでした。
貧乏一家の方が家族の親密性はあるけれど、金持ち一家の方は家族間がどこか冷めた印象というか、家そのものが広いけど暖かみに欠けているようにも思えるのは、割と紋切り型の金持ち像という感じです。この金持ち一家は悪人ではないけれど、それでも無自覚に相手を傷つけたりすることもあるし、嫉妬も受ける。彼らからしたら晴天の霹靂のような悲劇でしょうが、格差というのは結局こういう悲劇を誘発する要因であるということなんでしょうね。
てっきり死んだと思っていた息子が実は生きていたのはびっくりですが、この悲劇を前にただたた非現実感を覚えて笑うしかないあたりはジョーカーをも彷彿とさせます。まあ、この息子も短絡的で、地下の夫婦を殺そうと画策するも、石を落としてしまうなど、またもやまぬけっぷりを発揮する有様でした。
父親のメッセージをモールス信号で解読し、救う夢想をするあたりの流れは良かったです。彼が金持ちになって父親を救うビジョンも現実味はなく、なんとも虚無感を覚えるラストで余韻が残ります。
韓国の家には北朝鮮の攻撃に備えてシェルターがあるあたりとか、北朝鮮の国営放送のパロディを演じたりするあたりなど、韓国のの北朝鮮に対する意識がわかって面白かったです。
あと、誕生日パーティの準備でテントのまわりにテーブルを置く指示のあたりに、日本との因縁も感じられましたね。