なんやかんやいろんな賞を受賞した話題作でしたが、なかなか観られず、意を決してDVDを借りたら直近でテレビ放映という。
原作コミックも途中まで読んだのだが、いまいち読みにくくて挫折。でも映画を観てストーリーがわかったのでもう一度チャレンジしようかな。
とにかく広島に原爆が投下された8月6日、原爆の日の後にこの映画を観たのはなかなかタイムリーでした。
結論を言えば、評判通り良くできたアニメーションだった。
近年みた日本アニメーションの中でもかなり出来がいいなーと感じた。
まず、主人公すずを演じるのん(能年玲奈)がのんびりした主人公の雰囲気にぴったりはまり役。
アニメーションとしての表現も、詩的で美しく、それでいて残酷で、衝撃的で、優れた演出力を感じた。
いくつか「?」な部分もあったが、解説を読むとそういうことかと納得。
まあ、このあたりは大きな問題でもない。
総じて、戦争の最中にあってもどこか優しい世界があると感じる作品で、それだけに悲しさ、残酷さも際だち、静かに反戦を思う、そんな映画である。
ネタばれ
すずの妊娠のエピソードがさらりと流されてよくわからなかったが、結局栄養不足で妊娠出来てなかったと言うことらしい。
また、原作では周作は遊女リンと恋仲にあり、それを家族に反対され、ひとさらいのエピソードで会ったすずを見つけることが出来ればリンを諦めてすずと結婚すると言う無茶ぶりをしたらしい。だから、想定外で家族はすずを探しだし、祝言の最中に周作はリンを諦めなければならなくなって食欲を失っていたのか。
途中すずと周作の間がぎくしゃくとしたのも、すずがリンとの関係を察した為であったようだ。
また、周作がりんの初恋の相手との一夜をセッティングしたのも、もともと他の女性を好きだった周作が、すずを無理矢理妻として迎えることになった罪悪感もあったということ。
このあたりはちょっと原作を読まないとわかりにくい部分かな。特にリンと周作の関係は監督が2時間枠に描ききれないということであえて割愛した部分のようなので。まあ、でもわからないなりになんとなく理解する感じではあった。
戦争の最中にあっても、のんびりした主人公にはあまり悲壮感がない。着物をほどいてもんぺを作る過程や、乏しい食材でなんとか工夫して料理をする描写などを丁寧に描くことで、戦時中の暮らしがリアルに浮かび上がる。
およそスパイとはほど遠いすずを、ただ軍港をスケッチしていたと言うだけであらぬ嫌疑をかけて取り締まる憲兵の異様さも、家族の笑いの中で緩和される。
それでも、戦局が進むに連れ、どんどん息苦しさが増していく。
物語はすずと周作が本当の夫婦として絆を結んでいく様も描かれる。このあたりは乙女のロマン。
すずが周作への愛を自覚し、それ故に周作がかつての初恋相手との一夜を儲けたことが腹立たしく、夫婦げんかする様は微笑ましい。
広島といえば、とにかく原爆投下のインパクトが強いのだが、軍港のある呉の空襲がこれほど頻繁でひどいものだったと言うのははじめて知った。こんなにしょっちゅう空襲があったらノイローゼになりそう。たくさんの戦闘機と爆撃を前に、絵の具の色がはじけるなどの演出が詩的で良い。人間の心が空襲と言う恐ろしさを緩和すべく、無意識に非現実な幻想を織り込むあたりはなんだかリアル。
さらに時限爆弾と言われる、空襲警報解除後に遭遇する危険も知らなかった。時限爆弾が爆発し、すずが姪と片腕を失うシークエンスは実によく出来ている。
すずの家族や妹が広島市にいるということで先の不安を煽るし、カウントダウンのように日付が出るのもどきどきする。最後に日付が出た7月26日から、次に「11日後」と出た時は、咄嗟に日にちを数え、「原爆投下の日だ!」と震える。8月6日と表示しない演出がにくい。その日はまさにすずが実家に帰ろうとしていた日。九死に一生となった日。
原爆投下の演出も一瞬の閃光と地震のような振動。そしてかなとこ雲を思わせるきのこ雲。このあたりのリアル感も素晴らしい。
この映画では広島の惨状は殆ど描かれない。すずの両親の死や妹の原爆病がさらりと触れられるだけだ。まあ惨状を描いた作品なら『はだしのゲン』があるので充分と言う気もする。
原爆孤児となった少女の経緯もさらりと描かれれているが、亡くなった母親が腐り、蠅が集る描写が生々しい。
物語は原爆孤児を引き取ることで、失った姪や、子供の出来ないすずに、新しい家族という希望をもたらす。
つらく厳しく残酷な戦争の最中にあっても、どこかに残された優しい世界、そこに一縷の希望を感じる映画だ。