実は私、1953年のイヴ・モンタン版は観ていないのですよ。
名作として名高いし、よく父からも話しは聞かされていたのですが、未見でした。
テレビドラマ『大草原の小さな家』でニトロを運ぶエピソードがあって、『恐怖の報酬』のオマージュなのかなーと思ってました。
なんでなんとなくストーリーは知っていたのですが、あの『エクソシスト』のフリードキンがリメイク(再構築?)しているとは知りませんでした。
フリードキンのキャリアに傷がつくほど致命的失敗作と位置づけられた作品で、今だ日本ではメディア化もされず、ある意味幻の作品をこうして観られる機会があってよかったです。
公開当時は完全版に対して30分も削られたものだったとか。
削られたのは主要メンバーのバックグラウンドを語る前半だったようですが、確かに前半は長い上に、話しの半分くらいまでニトロのニの字も出てこないので、観る映画を間違ったのではないかと言う気がしてくるほどでした。
実録タッチ、独特の緊張感、乾いた映像、印象的なカットなど、フリードキンらしい作風で、1953年版を観てないので、どちらがどうとは言えないけれど、これはこれで十分面白かった。ただ、ちょっと前半が長い。
圧巻はやはりポスターになってるこの吊り橋のシーンに限りますな。これをCGではなく実際に撮影した事を考えると、『エクソシスト』の撮影時も俳優の緊張感を高めるために時々銃をぶっぱなしたりとフリードキンは相当やばかったらしいが、ここでもこんな映像を撮ってしまうフリードキンの狂気炸裂だなーと感じる。
ネタばれ
もともとフランス映画とあって、オリジナルは主要人物はフランス人で、訳あって南米に移民しているという設定だったようだが、ここでは主要メンバーのひとりが不正投資で負債を出した銀行家でフランス人という設定以外は、マフィアの弟に怪我を負わせて逃げる犯罪グループ(ロイ・シャイダー)、爆弾犯、ナチス残党狩りの殺し屋など、特にフランス人に偏ることなくそれぞれの背景を持つメンバーが逃亡の末南米に集合している感じ。
この背景がかなりじっくり語られるのだが、あまり頭に入ってこなくて、特にナチス残党狩りの殺し屋あたりは映画を観てる間はよくわからんかった。
のっけから、爆弾犯の爆発場面で度肝を抜かれる。最初のエルサレム描写はどことなくエクソシストのプロローグであるイラク描写を彷彿とさせる。
爆発シーンや油田の事故シーンなどの衝撃的演出はさすが。
後半、いよいよニトロを運ぶ段になると、吊り橋のシーンをはじめ数々の困難に遭遇する様はかなりスリリング。
倒れた木をニトロで吹っ飛ばすあたりも、凝った仕掛けに感心する。
ただ、こうした「いかにも危機」というシーンでは誰も死亡することはなかろうという楽観はある。
それより、困難を越えたあと、ふっと妻の話なんかをのほほんと語り出すあたりが一番危険なフラグ。案の定パンクから車道をはずれた車にニトロ爆発炎上という悲劇が呆気なく起こる。わかっちゃいるけどやっぱり衝撃を受ける展開。
途中盗賊に遭遇するロイ・シャイダーだが、正直に中身が危険なニトロであると打ち明けたらどうなっていたのだろう。結局はその言葉を信じずにもっとひどいことになっていたのかな。
ロイ・シャイダーが過去の記憶のフラッシュバックにより朦朧とする様は、これまた『エクソシスト』でのカラス神父のフラッシュバックシーンを彷彿とさせる。
そして、この危険な仕事に携わった4人は皆後ろ暗い過去を持つ。そして誰ひとりとして助からない。まあ、結局誰も救われない物語なのだ。
最後に救われたと思ったロイ・シャイダーも過去の因縁からは逃れられないラストに、なんとも無情を感じさせる。
フリードキンは人が悪い。