第90回アカデミー脚本賞を受賞したと言うが、うーんと首をひねる作品。

 

いや、前半はなかなか面白い。不穏な空気は上手く描かれていたし、背後に何があるんだと興味をそそる。だが、後半になってネタばらしになると「ぶっとび過ぎ!」って感じで、置いて行かれる。

『マンチェスター・バイ・ザ・シー』の時は脚本賞に納得するほど光るシナリオだと思ったが、こちらは「なんでこれが脚本賞なんだろう。黒人に何か賞を与えないとまた騒がれると忖度した結果?」と思ってしまった。

 

そんな訳で早々にネタばれ感想に移る。

 

 

ネタばれ

リベラルに隠されたレイシズムという着眼点は面白いと思う。

しかし、この映画は、主人公の母親を何もしなかったことで見殺しにしてしまったというトラウマと、催眠術という伏線が後半殆どいかされず未消化に終わるという欠点がある。

主人公のトラウマは車でひいた女性を助けることでちょっとした危機に陥るレベルで終わるし、あれほど主人公の深層心理に迫った催眠術は後半何の意味もない。主人公もそのトラウマとどう向き合って、立ち直るのかという部分はまったくなく、投げっぱなしの設定。

催眠術はあくまで主人公を拘束するための装置に過ぎず、だったら、睡眠薬を飲ませるとか薬を打つとかした方が早いと思う。体入れ替え作業に変に手間をかけすぎ。

 

さらにまだ偏見根強い土地柄にあって、黒人に憧れ、黒人の肉体を欲する白人という設定に違和感を感じる。そもそも「これからは黒が流行」なんてのりで、黒人の体を選ぶのか? 健康な白人の体を乗っ取ればいいと思うのに、黒人に固執する理由がいまいち説得力ない。白人の肉体を確保するより、黒人の方がたやすいってことなのか? 

おまけに脳を移植して体を乗っ取り、体の持ち主の意識も若干残るという、いったいどないな仕組みやねん!って言う展開についていけるかどうかが味噌。

私はそこから急激に気持ちが冷めてしまった。それまでは催眠術の万能性は多少無理でも受け入れたのだが、ここにきて、振り切りすぎというか、一気に荒唐無稽な展開になりすぎて、前半それなりにリアリティありっぽい展開だったのに、後半実は宇宙人が町を支配してましたってくらい斜め上に行きすぎる。

 

唯一の味方と思えた主人公の彼女が実は美人局で多くの黒人を斡旋していたと写真からわかるくだりは怖いし、車で脱出しようとするまでの流れはスリリングでよかった。鍵がなかなか見つからずはらはらさせてからの彼女の豹変っぷりもよい。ここがこの映画のマックスだったなー。

 

最後にパトカー登場で一瞬「主人公がこの状況を誤解されて撃ち殺される」と思ったのだが、そこはなんとか友人の助けでハッピーエンド。おかげで後味は悪くないが、このエンディングだと黒人は白人には関わるなというメッセージで終わりかよって気分になる。白人の恋人よりやっぱり最後に信頼出来るのは黒人のブラザーってか? 単に白人と黒人の溝を深める映画って言うのもねー。この映画自体ある意味逆差別を助長する映画と言えるかも。

この映画はもうひとつエンディングがあったようで、ここで逮捕された主人公が死刑になるというのが当初の構想だったようだ(実際手術室から出火している描写があって、証拠が燃えて主人公が不利となりそうな伏線が張られていたから、こっちもバッドエンドを想定してた)。その方が、風刺が利いているとは思うが、ストレート過ぎると言えばストレート過ぎる。多分後味もかなり悪そう。

いずれにせよ、前半のテンションの高さから考えると尻つぼみな印象。

 

そもそも脳を移植なんてぶっとんだ設定にしないで、リベラルなふりをした白人が強力な催眠術で裏で黒人を従順な奴隷にしていたくらいのオチで丁度よかったようにも思うが、それだと意外性なさ過ぎか。でも、そこからのもうひとひねりがあるくらいがよかったな。

Yahooの感想で、主人公は実は白人で、黒人女性をひき殺して見殺しにた罰で、催眠術で黒人と思わされて恐怖体験してたってアイディアを出している人がいたけど、そんな感じのひねりだったら面白かったかも。

 

いずれにせよ、スリラーとしては前半はまあまあ面白かったけど、それ以外は凡庸な作品。

 

そういえば冒頭鹿をひき殺す描写も意味深だった割にはそこまで深い意味なかったような。