1975年に作られたオリジナル版と比べるのは野暮というか、ティム・カリーをはじめ、スーザン・サランドン、ミート・ローフ、ネル・キャンベルそしてパトリシア・クインにリチャード・オブライエンとあまりにぴったりのキャスティングと、この作品に出会った頃の自分の思い入れは、仮にこれ以上の作品が作られたとしても、オリジナルに対する評価が揺らぐことはないだろうから。
実際の所、テレビ版として作られたリメイクは映画版より遙かにセットや衣装にお金がかかっているように思えるし、ダンスの振り付けなどもしっかりしている。
オープニングの『サイエンスフィクション』の演出も小粋で、オリジナルのパトリシア・クインの唇のアップとリチャード・オブライエンの歌声も前衛的で良かったが、リメイクのオープニングも悪くない。
要所要所、オリジナルのリスペクト的なカットを加えつつ、より舞台版に近寄ったような演出、これはこれでありかなーっと、また違った形のロッキー・ホラー・ショーを観たようで、それはそれで抵抗はない。
オリジナルのどことなくこなれない感、洗練しきれていない空気が、カルト的に愛おしいのとは逆に、ぐっと洗練された印象にはなっている。
衣装もブラッドやジャネットはほぼオリジナル通り。ロッキーがトランクスなのはちょっといただけないというか、やっぱりブリーフの方が良かったかなー。フランク・フルターの衣装なんかはより豪華になっている。
キャストの魅力はやっぱりオリジナルに軍配があがるのだが、フランク・フルターに黒人のトランジェンダー女優ラバーン・コックスを持ってくるところがちょっと新鮮。
ただ、個人的にはフランク・フルターは性を超越している存在なので、トランジェンダーとはちょっとニュアンスが違うような気がするというか、ティム・カリーは肉体的に男でありながら、仕草、表情が女性っぽくて、男とも女ともつきにくいのに対して、ラバーン・コックスは女性の心を持つ男性であり、性転換手術を受けているので、見た目はややごつい女性というだけで、普通に女性に見えてしまう。だから、性を超越したエイリアンとまではいかないのだな。
ティム・カリーは犯罪学者として登場するが、脳梗塞で車椅子を使用している状況により、かつてのオーラがすっかり失われているのが残念だ。それでもファンサービスとしてこのリメイク版に彼の姿を観るのは貴重。
細かい演出面や歌のアレンジなど「これじゃない」感はあるのだけど、ロッキーホラーショーの映画館におけるお祭り騒ぎをも映像に取り込み、これはこれで観られなくはないというか、一見の価値はあると思います。←何様
そうそうオリジナルでカットされたブラッドの『ワンス・イン・ア・ホワイル』のナンバーがここでは復活しています。
追記
オリジナルの『ロッキー・ホラー・ショー』は古きSF、ホラー映画へのオマージュに満ちている。『サイエンスフィクション』で歌われる深夜の2本立て映画というノスタルジー。
ロッキー誕生の流れはフランケンシュタインのオマージュ的だし、エディが殺されるシーンでのコロンビアの悲鳴のカットも『戦艦ポチョムキン』のオデッサの階段での悲鳴を思わせる古典的な演出。そしてマジェンダの最後の髪型はまんま『フランケンシュタインの花嫁』。
リメイク版にはそう言ったオマージュが観られないのがちょっと残念かな。