いつまでも大人になりきれない大人の夢見るロマンという感じで野暮な監督が撮ったなら「おいおい」となるような気恥ずかしい部分もあるし、ケヴィン・スペイシーの突然の豹変っぷりとか、どこまでも主人公にとってありがたすぎるヒロインとか、細かいところに伏線らしきものがあるけどあえて回収しないのか、回収出来なかったのか、気になるところもあるけど、エドガー・ライトは抜群にセンスがいいので目をつぶっちゃう。

 

いつものめまぐるしいカットによる映像編集は抑えめで、長回しを多用するなど、いつもとちょっと違うスタイルだけど、相変わらずテンポがよくてリズミカルでしびれる映像。エドガー・ライト、さすがだな~。 
なんつーか、音楽と映像の親和性といい、PVとかミュージカル好きの自分にはとても楽しめる映画。


主人公のアンセル・エルゴートが私の上司に似ていて(上司は40を過ぎても大学生に間違えられるような童顔)、最初から最後まで上司にしか見えないのが何だが、それは映画の問題ではなく事故みたいなもんだ。 

ただ、主人公の万能感はある種すかっとする部分でもあるのだけど、少し夢を見過ぎちゃってる感もなきにしもあらずかな。後継人との関係はなかなかよかった。


ジョン・ハム、いい男なんで主人公よりなんとなく彼を応援しちゃった。

ジェイミー・フォックスのキャラ立ちもよかった。

 

 

ネタばれ

やっぱり一番不可解なのはケヴィン・スペンシー演じる元締めだ。武器の調達にあたり、トラブルが起こって警察が動き出す事態になっているのに、強盗を決行したり、当然武器商人からの報復が考えられるのに、計画が失敗した後もあの場に居残っている謎。そして、「昔を思い出した」の一言で突然命がけで主人公を守る様も唐突過ぎるので置いてきぼりになる。

それはともかくケヴィン・スペンシーの甥っ子の頭の切れ具合は最高。あの子供はもっと登場して欲しかった。

 

そしてバディとダーリンのコンビもバッツの嘘にあえて乗っかり、最終的には彼を殺害するつもりだったのだろうが、そのあたりはたまたまバッツが死んだのでふわっとしたまま終わってしまったのが物足りない。

バッツの死に様はあっけないというか、バディはイケメンでどことなく振り切った悪党感があまりないので、ラスボス的に主人公と対立するにはやっぱり物足りなく、最後まで主人公とバッツと争った方が緊張感はあるなーと言う気がする。

ダーリンの死に様もつまらんところで適当に死んだ感があるので、彼らはバッツを殺そうとしてダーリンが逆に殺されると言う展開の方がよかった。ダーリンを殺されたバディがバッツを追い、バッツが主人公を追うことで、三つ巴の戦いになり、バディが大事な女性を失う痛みを知ることで主人公がデボラを守る姿勢に共感を示し、彼を援護する形でバッツに撃たれ(せっかくイケメンなんで重傷を負うけど死なない展開もあり)、最終的に主人公とバッツが対決する流れの方が自然。

そうじゃないと、バディがバッツに自分の過去を指摘されたことで生じた確執が宙ぶらりんのままで勿体ない。

 

主人公の音楽を聴かないと耳鳴りがするという描写も薄いので、彼が音楽を必要とする切迫感はあまり感じない。

主人公は両親を事故死で失ったトラウマがあるようだが、後半はあまりそれが活かされてない。前半は意味深に彼の記憶が何度もフラッシュバックしているし、父親が母親に暴力をふるっている描写もあるので、何かの伏線になるのかと思ったら、そこについて語られることもない。ただ、歌手でウエイトレスをしていた母親と重ねてデボラに恋心を抱く上での意味しかないのか。

そのデボラだが、天使っぷりが半端なく、主人公とそこまで深い仲でもないのに、やばい仕事をしている主人公をすんなり受け入れ、5年の刑期も迷わず待ってくれる。このあたりが理想的過ぎて妄想っぽい。

 

なんてことのない若者がスーパーマン的にカーテクを駆使して活躍し、その彼を一途に思う彼女がいるという、男のロマンを真っ正面から描くライトは、やっぱり大人になりきれない夢見る大人だね〜。