『セブンコンティネンタル』『べニーズビデオ』そしてこの作品を持って 「感情の氷河期三部作」なんだそうですが、その三作の中ではこれが一番辛かったですね。
ほら、ハネケの作品って全部を説明するのではなく行間を読め!って感じじゃないですか。で、その行間が『セブンコンティネンタル』『べニーズビデオ』あたりだとまだわかるような気がするですが、これはね、あまりに断片が多すぎて、人の顔を覚えるのが苦手な私はまず各登場人物の顔を把握するまでが一苦労だったりなかなかの修行ですよ。

もともとオムニバス形式みたいな話は、ある程度各エピソードを把握しないと漠然とした情報だけを目の前で繰り広げられるようで、頭に入ってこなくなっちゃうですよね。
なんで、話の半分くらいは、何がなんだかよくわからんって感じを味わうんです。そりゃー辛いですよ。延々と卓球シーンを見せられるくらい辛いですよ。
いろんなニュースが挿入されるのも何か意味あるのかなーとかいろいろ注意を払うのも疲れちゃいますね。

そんな中でも、夫婦の食事のシーン気まずい空気とか、なかなかなつかない養女の話とか(なんでこの娘を引き取ろうと思った???)、老人の孤独とか、それぞれの人生の断片を垣間見ることで、思うところもいろいろある訳なんですが、そういうことがすべて中途半端によくわからない事件に巻き込まれて終わってしまう訳ですよ。

とにかく私たちが知り得る情報なんてそんな断片的なもんに過ぎないんだよってことをハネケさんはおっしゃりたい訳で、しかし、現実がそうだとしても、いやむしろ現実がそうだからこそ、何か答えが欲しいと思うが人情だったりして、それをわかったように答えをすべて提示するというのも傲慢かもしれないけど、つかみどころのない世界をそのまま映像化されるのもそれはそれで辛い気が致します。
というか頭つかわなくちゃなんないからしんどいって言うのが本音かな。

でも、まあ、たまにはこういう映画を観ていつも使わない部分の脳を働かせるというのもいいもんかもしれませんね。観ている間は「やっぱりこの人の映画は不親切」ってぶーたれたくなるんですけどね。

これはハネケ版『エレファント』なんて話もありますが、『エレファント』もそれほど面白い映画ではなかったけれど、これよりは見やすかったですね。


ネタばれ
養女の話がちょっと印象的で、施設から何故この子を引き取ろうと思ったのか、何故なつっこい子供もいるのにこの子なのかは不思議でしたね。
で、動物園で少女の肩に手を回すと振り払われちゃうの。そりゃー最初からなつくことはないにせよ、私だったらこんなハードル高そうな子供は倦厭しちゃうなー。
でも、あの少女は密かにあの夫婦の家に行けることを楽しみにもしているんですよね。
一方夫婦はテレビで観た亡命者の少年を引き取ることに決めるんですが、これは少女とふたり引き取ることにしたのか、少女をやめて少年にしたということなのか、どっちだろうと考えちゃいました。
でも後半少年しか出て来なかったし、やっぱり肩に回した手をはねのけられたのが致命的って事だったんでしょうかね。観ている側もこの少女の気持ちが見えなくて、夫婦の判断に納得しちゃう部分もあるし、でも実は少女がなつきかけていた事実を知るととても残酷にも思えます。
こういうところにハネケの言うコミュニケーションの難しさを感じるというか、双方の意図が微妙にずれて起こる悲劇というのは枚挙にいとまがない訳ですよ。

銀行を襲った少年も理由はわからないけれど、あの繰り返しの卓球といい、つねに何か我慢を強いられる日々の中、彼のなかで何かが限界に達したのかなーとも推測出来ます。
それは、花粉みたいに蓄積して、ある時免疫MAXで花粉症があふれ出すみたいなものかなーなんて思うんですよね。その免疫MAXの度合いが人によってまちまちだから、人は相手の限界を測りかねるのですよね。