最初はひどく眠かったのだが、U-2撃墜事件あたりから目が覚めて、主人公がベルリンに渡る頃にはすっかり覚醒し、結果的になかなか見応えのあるドラマであった。

特にベルリンの壁が築かれる描写が、なかなか映画として観られない光景だったので興味深く面白かった。
また、当時のソ連と東ドイツの微妙な関係など、色々知らなかったことが描かれている点も面白い。

地味な題材だが、最期のグリーニッケ橋における緊張感ある演出はさすがというか、きっちり見せる。

脚本がコーエン兄弟とあって、アベルの家族の描写や、ソ連の正式名称が長すぎることのこだわり、具合が悪いので早く帰りたいと何度も言うあたりなど、ユーモラスな場面もあり、スピルバーグの熟練した監督技と相まって、全体に手堅い作品。

複数の被害をだそうともそれを一件と捉えるか、捉えないかという問題からこの映画は始まるわけだが、その論調は後にソ連と東ドイツのスパイ交換へと繋がる。
正直、火事における家財の保証と、一回の事故により死んだ人間の数を同列に考えられるだろうかと言う気がするし、同じ理論でブツブツ交換の理論をひっくり返す弁護士というのは、詐欺のようでもあるのだが、その巧みな話術あったからこその交渉成立と言うことなのだろう。

自分の職務を忠実に全うし、アメリカの理想のような存在であるジェームズ・ドノバン
少々格好よく描きすぎかなーと思うのだが、これはまさにアメリカのヒーローの物語なのだ。

多分にアメリカよりの物語ではあるので、事実とは違う脚色があるのは当然心にとめておくべきだろう。

トム・ハンクスは最近こんな役が多い。
正直あまり好きな俳優ではないのだが、こういう役にはまっているのは確かだ。
アベルを演じるマーク・ライランスが印象深い。「不安を感じないか?」と言う問いに「何かの役にたつのか?」と冷静に答える彼はかっこいい。


ネタばれ
やはりアメリカよりと言うか、ソ連や東ドイツへの眼差しが厳しめ。
人質交換の際に、東ドイツ側が差し出す手を無視するあたりの冷ややかさ。
また、抱擁ではなく後部座席にただ座らせることでアベルの未来が決して良きものでないような描き方をしているが、実際の所どうだったのだろう。
wikiによるとその後は「帰国後は、諜報部に復帰し、非合法諜報員の教育に当たった」とあるので、公的には悲惨なことにはなっていないようだが。