蔦屋発掘良品はアタリが多いが、これもアタリだった。
この映画の存在も、実際あった事件のことも知らなかったが、非常に面白かった。

リチャード・フライシャー監督は『絞殺魔』でも実際に起こった事件を元に映画を撮っているが、分割画面を多様するなど演出面が奇抜だったのに対して、こちらは至って地味にリアリズムに徹している。『絞殺魔』はそもそも事件の渦中に撮られた作品なので創作部分が多いのだが、こちらは一応ほぼ事件の全貌がわかった上での作品なので、供述書から再現される会話などさらにリアリティが増している。
そもそも実際に事件があったアパートでロケをしているのだから、スタッフも俳優もさぞ薄気味悪かったのではないだろうか。
実際、なんとも言えない閉塞感を覚えるアパートも作品のムードを高めている。

何よりこれまで良心的な人物として好印象だったリチャード・アッテンボローのイメージがいっぺんするど変態っぷりが強烈。本当に根っからのど変態に思えてこれからはアッテンボローを観る目が変わってしまいそうなほどだ。
とにかく、きもい、きもい、気持ち悪すぎる演技(一応褒めてる)。
一見紳士っぽく、言葉巧みに相手を誘導するあたりはレクター博士っぽい。

非常に若いジョン・ハートも出演。この人は私の中ではエイリアンエレファントマンかってイメージなんだけど、非常に透明感のある俳優さんで、リチャード・アッテンボローにいいように丸め込まれる少し頭の弱い夫の役にぴったりはまっていた。


ネタばれ
実際に1949年に起こったイギリスのエヴァンス事件について少し調べてみたが、この事件が免罪事件として有名でイギリスの死刑制度廃止のきっかけになったというのは興味深い。
ただ、連続殺人犯であるクリスティは、免罪で死刑になったエヴァンズの妻や、その他の殺害を認めているにも関わらず、エヴァンズの娘の殺害だけは認めていないのはどうしてなのだろうか。今更そこだけ嘘をついても死刑が免れる訳でもなく、認めない理由がわからない。