1978年に起こった人民寺院事件を元に描いたフィクションだが、まさに事実は小説よりも奇なりと言うか、この映画は事件の背景、規模、鬱感、衝撃度、すべてにおいて実際の事件に負けてしまっている。
なんというか、実際の事件の上っ面だけをなぞったようで、ある程度実際の事件を知る私は脳内補完が出来たが、実際の事件を殆ど知らない人間にとっては「なんでこーなるの???」と不可解に写るのではないだろうか。
時代背景も今の時代にいまいちマッチングしていないし、POVのもつ臨場感も効果的に機能せず、逆に不自然にさえ写ってしまう。
その事件の異様性だけで十分インパクトのある題材なのに、なんだか勿体ない感じ。

ところで教祖が北朝鮮の某あの人に似てるのは狙いなのかな?


以下ネタばれ

ウェブメディア会社VICEのモキュメンタリーと言う体裁をとっているので、取材人2人がカルト宗教に潜入というところが既にスケールダウン。
この2人が潜入したというだけで、崩壊するコミュニティというのがなんとも説得力がない。
実際の人民寺院の事件では、下院議員とマスコミ関係者が視察に行き、その実態を暴くことで、脱会者を連れて空港からチャーター機に乗るところで信者に襲撃され、議員を含む5名が死亡し、11人が重軽傷を負うのだが、映画では襲撃されるのは僅か2人でヘリコプターの操縦士が負傷するだけと、これまたスケールダウン。
また、実際の事件では914人が死亡したと言われているが、映画では200人足らずなので、俯瞰した際の死体の山も実際の事件の壮絶さに比べると縮小されてみえる。

個々の人間の描き方も薄く、妹に面会に行った兄貴は殆ど登場せず(途中本当に3Pなんかやってたんだろうか?)この兄妹の関係がきちんと描かれないことで後の悲劇性もぴんとこないものになってしまう。

教団の裏側も、教祖が信者の女性と関係を持っているらしいとか、体罰があるとか、うっすら語られるだけで、いまいちよくわからない。
実際の事件はさすがに下院議員を銃撃してしまった以上、教団が存続することは難しくなるだろうと思うのだが、映画ではそれほど影響力があるのかないのかわからないウェブメディアのクルーを襲撃したところで、教祖が絶望するほどのことなのか? という疑問が残ってしまう。
なので、いきなり集団自殺という決定が下されるようで不可解だ。
実際の事件では、もともと教祖が仮想敵を設けることで、内部の結束を強め、軍事訓練などもしていたことや、集団自殺願望も元からあったのか、その予行練習などを行っていたという背景があるのだが、映画ではすべてが唐突に感じられてしまうのだ。
実際の集団自殺テープを聴くと、事が行われている間にずっと歌声のテープが流れていて、それがまたなんとも鬱感を高める。そういう演出面でも、映画は物足りなさがある。
母親が娘を殺すとか、妹が兄を殺し焼身自殺するとか、衝撃性を高めるような出来事も描かれているが、これらもすべてがカルト宗教の怖さに繋がらず、空回りしているように感じる。

POVの性質上、カメラマンがヘリで襲撃されたにもかかわらず教団に戻って仲間を助けに行く展開も無理を感じるというか、あそこは一度ヘリで逃げて応援を呼びに行くべきでは?と思ってしまう。
さらにヘリの操縦士が撃たれてケガをしているのに律儀に1時間もふたりを待つというのも不自然に思える。
こういう展開的な無理も作品のリアリティを損ねている。

フィクションにする以上、実際の事件以上の誇張があっていいと思うのだが、逆にこじんまりしちゃってるのは予算不足の為なのか? エキストラ不足なのか?