いやー、怖かった。
下手なホラー映画よりよっぽど怖かったですね。
公開当時、監督が『プロメテウス』がいまいちのリドリー・スコット監督だし、豪華キャストもマイケル・ファスベンダー、ブラッド・ピットがあんまり好きじゃないし、キャメロン・ディアス、ペネロペ・クルスも好きでも嫌いでもないんで、いまいち魅力を覚えなかったんですよ。
ただ、ハビエル・バルデムが出演しているのと、脚本が『ノーカントリー』の原作者であるコーマック・マッカーシーなんで、そこだけはちょっと気になっていたんですが、完全に流してました。
いやいや、しかし、とある知人の紹介で観て正解というか、評価も賛否両論あるようですが、私的にはめちゃくちゃツボというか、ものすごーく面白かったですよ!
まずね、やっぱり小説家ということもあって、想像させる怖さが巧みなんですよ。
これはやはり小説家ブラッティが脚本を書いた『エクソシスト3』にも言えることなんですが、直接的に見せることよりも、想像させることでより恐怖感を煽るという手法が私は滅法弱い。
この映画でいえば、ボリートとというおそらく想像上の殺人装置が最初に示唆されるんですよ。聞くだけで最悪と思わせる装置の存在が、その後の恐怖感に繋がる訳です。
もうひとつ、非常に不快なスナッフビデオの存在も後々最悪の想像を呼び起こさせるんですよね。
こういう手法はさすが小説家だなーと思います。
他にも運び屋を殺すシーンなども、病的なまでにプロセスが凝っていて嫌な感じです。
というか、なんであんな面倒な殺し方をするのかは謎でしたね。他に邪魔が入るリスクがめっちゃありそうな状況でしたしね。
ワイヤーマンと警官を装う麻薬カルテルの銃撃戦も見所でした。
ここで描かれる麻薬カルテルという存在がもう、オカルトで言う悪霊か何かのような存在で、正体は見えないけれど絶対に逃れることのない災いという感じですよ。
まあ、そのあたりは『ノーカントリー』のアントン・シガーに近い扱いなんでしょうね。
この映画の怖い点は、誰もがほんの数秒前までは前途洋々で幸せの絶頂にいることなんですよ。
マイケル・ファスベンダーもペネロペ・クルスも結婚が決まってこれ以上ない幸せの絶頂だし、ハビエル・バルデムもナイトクラブを開く準備で上り坂だし、一瞬にしてすべての物事が悪く転ずるなんて誰も予想していないってあたりが怖かったですね。勿論幸福の最中にもそこに至る因果関係も警告もなされていたわけですが、それが思いがけない形で災いとなってふりかかる様はまさに青天の霹靂とも言えましょう。
しかも一度物事が悪く転がり始めると加速度的に破滅していくあたりが本当に怖かったです。
まさに一寸先は闇です。
ブラピだけはセレブの暮らす光の世界と、その裏で蠢く麻薬カルテルの水際にいるので、その可能性をつねに覚悟している人物ですが、観る側はマイケル・ファスベンダー同様、何か打つ手はあるはず、そこまで最悪な状況であることが信じられないのですよ。
しかも、彼が助けを求める人物がすべて、もはや処置なしと思っているあたりがまた怖いんですよね。マイケル・ファスベンダーはある意味、突然にして首にポリートをかけられ、周囲の人間が手をこまねいて傍観している中で、じわじわと首を締め付けられている状態と変わりません。
この逃れられない絶望ほど恐ろしいものはありません。
欲望が人を破滅に導くというプロットは道徳的でもあるのですが、安易に麻薬カルテルに投資すると言う選択が、実はスナッフビデオを観るユーザーのように、無自覚に悪に荷担していることに、マイケル・ファスベンダーは気付いていないというか、殆ど深く考えていない状態なんですよ。
ペネロペ・クルスも高価な指輪の値段なんか気にしない。そのために彼が払った代償なんか考えない。ある意味幸せ過ぎる女性。
しかし、そうやって無自覚にそれらに力を与え、あぐらをかくことは、いつか自分たちの寝首をかかれかねない脅威であるということなんですね。
メキシコの暗部からあまりに乖離した富裕層の盲点とも言えるのかもしれません。
いろいろ哲学的な言葉が溢れていますが、追い詰められている時に「選択はもうなされた」って訳のわからない説教をこんこんとされるのはさすがに苦痛ですよね。言ってることはごもっともだが、そんなことよりとにかく助けてくれって気分の時にあれはないです。
ネタばれ
ブラピは麻薬カルテルがやばい存在とわかっていながら、女にたいする欲望が捨てきれなかったばかりにハニートラップにはまってしまうんですね。
とにかくボリートによる処刑はトラウマ級ですね。その武器の恐ろしさをよく知っているブラプだけに、死は免れないこともわかっていて、一瞬笑いさえ起こるのですが、結局本能的に最後までもがかずにはいられないあたりが本当にみていて怖かったですよ。
しかも、まわりは何が起こっているかわからない、わかっても助けられない状況というのも苦しいですね。
まさにマイケル・ファスベンダーの置かれた状況を象徴したものとも言えます。
意外なことにキャメロン・ディアスがよかったですね。これまでラブコメのアーパーギャルなイメージでしたが、こんなに悪女がよく似合うとは思いませんでした。ちょっと見直しましたよ。
彼女は純然たる欲望の為に行動する獣、チーターの化身のようですが、罪悪感をもたないという点ではサイコパスのような存在です。
ただ、よくわからないのは、キャメロン・ディアスの立ち位置なんですよ。
彼女が麻薬カルテルか麻薬を強奪する為にグリーン・ホーネットを殺害し、麻薬を横取りする訳ですが、結局その麻薬は組織に奪還されてしまんですよね。
で、矛先をブラピに向ける訳ですが、ということはブラピも資産がなければ殺されずに済んだってことなんでしょうかね?
で、殺害方法に麻薬カルテルの見せしめを意味するボリートを使用するということは、彼女も麻薬カルテルの一員で、表向きはブラピを見せしめに殺し、その裏では内部裏切りをしてたってことなんでしょうか?
理解出来ない災いに見舞われた男の不条理劇として観る分にはそのあたりが不明なのは別にいいっちゃーいいんですけどね。