白石晃士監督が影響を受けたという作品なので観てみました。

ある殺人者のドキュメンタリー映画を撮る3人のクルーというモキュメンタリーで、モキュメンタリー好きとしても気になる作品です。

殺人者と言ってもサイコパスの類いではなく、一応金品狙いの強盗という流れだったりするんですが、次第に常軌を逸していく様は、なんらかの精神疾患か人格障害ではないかと思わせます。
特に途中のレイプシーンなどはもはやシリアルキラーの域にあるようにも思えるのです。

とはいえ、詩を口ずさみ、芸術を解し、音楽をたしなみ、饒舌に語り、いっぱしの含蓄を語る殺人者は、殺人者ということを抜きにすればちょっと優雅で魅力的な人物にさえ見えなくもありません。
しかし、いったんスイッチが入ると突然に豹変する、こういう一見まともそうに見える秩序型殺人鬼が一番厄介です。ついさっきまでにこにこ笑っていた次の瞬間というのが実に怖いですね。

殺人やレイプという滅入る映像でありながら、どこかとぼけたユーモアさえ感じる作品です。
退院祝いの最中に起こす唐突な行動など、その後のなんとも言えない空気感がリアルです。

撮る側が被写体に取り込まれモラルから外れたとき、記録者ではなく加害者に変化する。
当然、帰結するのは破滅であるという、ある種モキュメンタリーのお約束のような結末ですが、まあ、それがあってこの作品の作り手に対して劇中のクルーのように常軌を逸していないという安堵感を感じるのです。

ブノワ・ポールヴールドの怪演が光ります。