『ザ・デッド:インディア』を観た流れからの再見です。
『ザ・デッド:インディア』の感想でも書きましたが、私はこの作品を近年まれに見るゾンビ映画の傑作だと高く評価しております。
まず、冒頭いきなりゾンビが蔓延している世界観がいいですね。
「撃っても死なない!?」
「頭を撃てば死ぬ!」
「死人が蘇った?」
「馬鹿な!」
「あり得ん!」
「噛まれた人間はゾンビになる!」
っていうお約束をお話の中で説明することなく、もうみんなわかってる前提というのが素晴らしいのです。
ゾンビ映画によってはその説明に映画の30分以上を費やすものもありますが、『スパイダーマン』のリブート版のように「またベンおじさんが死ぬところから話がはじまるの?」って言うかったるさがあります。
例外として元祖ゾンビ映画『ナイトオブザリビングデッド』がそこからはじめるのはしょうがないし、『ショーン・オブ・ザ・デッド』『ゾンビ大陸インディア』のようにその不穏さが効果的に描いている映画はいいとしても、基本、もうそのあたりはすっとばしましょうよと思うのです。
なので、いいゾンビ映画の条件は
「面倒な前提条件を最初からだらだら説明しない」
です。
この映画で、これまでのゾンビ映画の概念を覆す秀逸な点は、広大な大地によるゾンビとのおっかけっこです。
通常ゾンビ映画というのは立てこもり系です。ベーシックでいえば、一軒家にたてこもり、そこでゾンビとの攻防戦を繰り広げる。大概のゾンビ映画はこのスタイルだし、その方が怖いのです。
しかし、ここでは立てこもらずにしてゾンビが怖いと思わせてくれます。
広々とした大地。逃げ場がいっぱいあるし、のろのろゾンビなど恐れる必要がないのです。でも、人間は飲み食いはしなければならないし、休息も必要だし、時にケガや病気に見舞われて身動きがとれなくなる場合もあります。
こうなると広大な大地というのはかえって絶望的です。どこにも安全な休息場がない訳ですから。
立ち止まればのろのろゾンビはいつのまにかわらわらとまわりを取り囲んでくる。熱い日差し、水や食料も十分ではない。道も悪く、車もいつ燃料が切れるか、故障するかわからない。いずれは体力が落ちて、最後にはゾンビにやられる恐怖がつねにある。
この映画を観たとき、こんな怖いシチュエーションがあるんだと感心したものです。
ケガをして動けないものが、のろのろと近寄ってくるゾンビに恐怖しながらなすすべがないという恐怖。
広大な大地を歩行で渡ることができない故に、車が必需品であることは明白で、その車を得るためのゾンビとの駆け引き。
暗闇でのゾンビとの対峙。
じりじり、はらはら、じわじわ、どきどきと、すべてが悪夢のようです。
それでいて、アフリカの雄大な風景と、シルエットとなって歩くゾンビの姿は美しいのです。
ゾンビメイクもあっさりしたもので、目の玉が小さくなってるだけだったりするんですが、それが効果的なんですよね。黒人のゾンビを演じるクオリティは高いです。
最後も絶望の中の希望というまさしくロメロの『ゾンビ』の秀逸なラストを継承するような終わり方でよろしいです。
ネタばれ↓
アメリカ人とアフリカ人はどっちも一応軍人なのに、交代で寝るという発想がないのか、ふたりで一緒に寝て、ゾンビに襲われるシーンはまぬけでしたね。
あのあたりは、もうひとひねり欲しかったです。
自分ひとりで精一杯なのに、赤ん坊を預かったときの主人公の「どうなっちゃうの」感は半端なかったですね。意外にあっさり解決しちゃうんですけど、このあたりをえぐく追求したら、それはそれでとても怖い映画になったと思います。
越えるのが困難と言われた山を主人公がやけにあっさり越えてしまったのが拍子抜けです。簡単に越えられるならハードルの高い伏線はいらなかったと思います。
基地にたどりついて、主人公が塀を越えるのが意外にあっさり。あんなにいっぱいゾンビがいるのに、問題なくくぐりぬけられちゃうと、ラストのゾンビ襲撃シーンもたいしたことがないように思えますね。
と欠点の多少はありますが、総じて心拍数とアドレナリン値があがる素晴らしい映画です。