「おいっ。まだ遠くに逃げていないはずだ!捜せ」
路地の角から聞こえてくる。あの男には見覚えがあった。
絶対、見つかったらタダで済まされない。考え付く拷問の末に見せしめに殺されるのがオチだろう。
自分がついこの間まで所属していた組織だけに、やつらの手は知り尽くしていた。
いくら、ボスの息子であろうが、罪は半端ないだろう。
こんなところまで追っ手が来るとは・・・。
シチリアは無事に脱出し、ある街に来ていた。
乾燥した路地は石畳で出来ていた。古いローマ時代の街道なのだろうか。
街道沿いの建物はどちらかというとみすぼらしく、人が住んでいるのかどうかもよくわからなかった。
そんなに大きな街ではない。どちらかというと村というべきなのだろうか?
どこからか、鶏や家畜の鳴き声が聞こえてきた。
このまま、逃げると怪しい奴だと追いかけられる。また、普通に歩いて正面から出くわすのも最悪だ。
ふと下を見ると、老人が座っていた。浮浪者だろうか?あぐらをかいた痩せこけた身体に禿げ上がった頭、白い長いひげ、目は開いているのか閉じているのかわからない。起きているのか?眠っているのか?
ままよ。
老人の横に寝そべり、近くにあった大きな農民が使うような帽子で顔を覆った。
ここは、寝たふりを装おう。
すぐに、マフィアの一団の気配が近づいてくる。
自分の前に、立ち止まるのがわかった。
身じろぎしたい、すぐにでも逃げ出したい衝動に駆られる。
変な汗が背中をつたう。
心臓の音が聞こえてしまうのではないかと思うくらいの勢いだ。
「おい、じじい。いつからここにいる?見かけない奴がこの村に来なかったか?」
声は聞こえないだけに、恐怖が募る。
もし、隣の老人が自分を指差していたら???
怪しんで帽子を取られたら・・・
こんなに近い距離で無防備な格好で寝たふりしていると思うだろうか?
これは、命をかけた大博打(おおばくち)だ。
「ふん。お前ら、次の村に行くぞ!」
一団が過ぎ去っていくまでじっとこらえる。
暫らくは、音が全く聞こえなくなっても動けなかった。
そっと、起き上がって老人のいた方を見ると。老人と目が合う。
老人は無言だったが、そのまま、建物をまわって歩いて行った。
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俺は、再び目を覚ました。
最悪な夢を見た。
何度も何度も繰り返し見る夢だった。
味わった恐怖は簡単にぬぐえないものなのか?